1994/2/15 藤井猛四段—依田有司五段(順位戦)

感想

今期順位戦も残り2局。相手は依田有司五段。

戦型はまたも相振り飛車。2局連続相振り飛車は珍しい。

「先手向かい飛車対後手三間飛車」だけ見るとオーソドックスだが、藤井四段は矢倉に組みに行った。依田五段も☖3六歩と押さえ、先手の理想形に組ませない。その上☖3三銀~☖4四銀と積極的な駒運びをしてきた。

29手目、2時間を超える大長考の末、突如☗6四歩から仕掛けた。

まだ居玉だ。通常、☗6四歩~☗8四歩~☗6四飛~☗8四飛というような仕掛けがあるが、飛車は8筋に居る。☗6四歩の意図は何か。前局の勝浦九段戦でも見られたように、☖7二玉の瞬間に攻めやすい形にしておくということだろうか。藤井四段は6筋で継ぎ歩した後に8筋の歩交換をしに行った。依田五段は☖6六歩~☖6三歩と歩を下げた。

この小競り合いの結果、28手目の局面と比べ、藤井四段は一歩を犠牲に6筋と8筋の歩を切り、☗6六銀と☗8六飛を指した勘定。ポイントを挙げたのではないかと思った。

55手目☖4五桂。☗3七金に当たっているが、藤井四段は逃げずに対応した。先手も桂馬が欲しいはず。依田五段も結局☖3七桂成としなかった。49手目☗3七同金としたのは、もし☖3七桂成としたときに☗同銀とした形の方が後の☖2八角を防いでいるということか。

63手目☗6八香は後手の飛車回りを防ぎつつ、☖6三の地点を狙った味良い一着。67手目☗5五銀と合わせて寄せの形も見えてきた。

72手目☖9五角は鋭い切り返しだが、☗6六飛もまた上手い。後手陣の弱点にどんどん駒を打ち付ける。藤井四段がこのまま勝ち切りそうだと思った。ただし、☖6八角成~☖8五飛で後手の飛車が捌けてきた。先手陣も危なくなっている。☖8八飛成に☗6八歩で耐えているか。その上、後手がすぐ寄りそうで寄らない。藤井四段も依田五段の攻めを面倒見る必要が出てきた。☗3五角が攻防だが、☖5七桂成~☖8九龍はなかなかに厳しい攻め。意外と難しい。

96手目がクライマックスの局面。ここで後手玉に寄せがあればと言うところ、藤井四段はしっかり寄せに出て決めた。後手玉が詰む条件を把握していた。

激戦の末ついに順位戦7連勝。8勝1敗で最終局を迎える。この節で全勝で走っていた先崎学五段が久保利明四段に敗戦し、自力の目が復活した。

評価値

評価値(Suisho5(20211123)-YaneuraOu-v7.6.3/1手15秒)

ずっと藤井四段が良いと思っていたのでまさかの評価値だった。しかも数字としてはほぼ勝勢と言っても良い。藤井四段も苦戦を意識していたのだろうか。94手目に☖5七香成ではなく☖3七歩と打つ手や96手目も☖6二金打という手もあったようだ。ということは藤井四段も勝負手を出していたということか。そういうことに気付けなくて残念……。とにかく、凄い将棋で昇級の目を残したことになる。

参考文献

  1. 藤井猛著『藤井猛全局集 竜王獲得まで』(日本将棋連盟発行/マイナビ出版販売)

棋戦情報

第52期順位戦C級2組(主催:毎日新聞社、日本将棋連盟)