1993/7/22 平藤眞吾四段—藤井猛四段(竜王戦)

感想

平藤眞吾四段との戦い。藤井四段は裏街道と言われる昇級決定戦を爆走しており、ここを勝てば決勝に進む。

戦型は藤井四段の四間飛車に平藤四段の☗5七銀左急戦。23手目に早くも☗3五歩と仕掛けた。

9筋の突き合いがないのが珍しい。もちろん1筋の突き合いもない。非常にスピーディーな仕掛けと言う印象がある。この仕掛けにも☖3二飛にも、お互い50分以上時間を費やした。

30手目☖1五角は端の突き合いがないのを活かした角出。端角を指しこなすのは難度が高いが、藤井四段の端角は有効なことが多い。本局も☖3五飛~☖2五飛と歩を掠め取ることができ、後手が一本取ったと思う。

ここからは最後駒組み合戦。この過程で、先手は9筋の位を、後手は1筋の位を取った。本局の藤井四段も玉側の端を突き返さなかった。それよりも飛車の可動域を増やす方を優先した。ただし先手の飛車を捌かせないように気を遣う必要はある。

58手目からの一連の手順で後手の銀は1三に追いやられてしまったが、飛車を中央に使うことができた。この銀も☖2二銀とすれば先手の飛車の捌きを防ぐ駒になるので遊び駒にはなっていない。藤井四段が絶妙なバランスの取り方を見せている。75手目☗3七桂は先手も十分に駒を使える形になったが、後手一歩得で先手歩切れ。後手がやや良いというところだと思う。ただし、既に藤井四段の持ち時間は10分を切っている。

76手目☖9四歩。本局も地獄突きが出た。

藤井四段は端の位を取らせても堂々と反発する。後で反発できるなら序盤に端に1手使う必要が無いという理屈があることが分かる。

玉が広くなったという確実なポイントはあげたが、攻めとしては先手玉は遠い。この間に平藤四段は右辺から手を作ってくる。☗2三歩成~☗2二歩で桂香得を確定させるが、藤井四段も☖3四銀~☖2四歩~☖2五歩で桂を取り返しつつ飛車を抑え込む。時間切迫の中、力のこもった攻防が続く。

99手目☗9四歩に☖8四歩が勉強になる柔らかい受け。☗9五香に再度端を詰められたが、後で☖8三桂と打ち香車を取ることができた。

126手目に☖3七銀という武骨な手が出た。藤井流の手という感じがする。

この角は6四金と8二玉を間接的ににらむ脅威の角だったが、露骨に排除しに行った。確かにこの角さえい無くなれば後手陣に怖いところはなくなる。この後と金で☗2九飛も取ることができた。140手目には成香を取りつつ自陣に竜を引き付け、さらに自陣を安全にした。先手の歩切れも大きくここは完全に後手が良くなったと思う。

しかし平藤四段も粘る。☖8八金に☗9九桂というレアな符号も出た。同じ犠打でも☗7九桂よりも先手玉が広い。それでも藤井四段は自陣竜も活用しつつ先手玉を寄せ切った。184手、持ち時間5時間ながら終局時刻は23時57分だった。

若手同士、力のこもった良い将棋だった。

評価値

評価値(Suisho5(20211123)-YaneuraOu-v7.6.3/1手15秒)

実に110手以上ほぼ互角だった。素晴らしい。この間、振り飛車がやや指しやすいと思っていたが、評価値は若干先手に振れていた。均衡が破れたのは117手目だった。銀を拾って☖3七銀と打ち、相手の大駒を抑え、取り切れたのが大きかったようだ。☖3七銀はあまりにも武骨で一瞬打ちづらいが、最善だった。

参考文献

  1. 藤井猛著『藤井猛全局集 竜王獲得まで』(日本将棋連盟発行/マイナビ出版販売)

棋戦情報

第6期竜王戦昇級者決定戦5組(主催:読売新聞社、日本将棋連盟)