感想
第45期王将戦初戦、佐藤秀司五段との戦い。佐藤五段とは過去1勝1敗。
戦型は藤井五段の四間飛車に佐藤五段の5筋位取り。
☗6五歩に☖6二飛が習いある受けの手筋。
本譜は佐藤五段が2枚の銀を前に繰り出し、全力で抑え込もうとしてきた。35手目の局面はなにか振り飛車にも反発の筋がありそうに見えるところ。藤井五段は23分使って☖5四歩。☗同歩なら☖同金で振り飛車の駒が一気に捌ける。しかし佐藤五段は☗6八金上とじっと上部を厚くする。不思議なもので、後手が反発した手に先手が反応しなければ、後手も一気に捌ける訳ではない。☖5三金として次の☖5五歩を狙った。この☖5三金は『四間飛車の急所 第1巻』(浅川書房)に載っている。
この☖5五歩が受けづらい。佐藤五段は☗2四歩~☗6四歩としたが、歩損するので喜んで進めた手順ではないと想像する。藤井五段が序盤を上手く進めただろうか。45手目の局面は案外手が難しく、すぐ攻めて行けば飛車の位置が近いため反動が大きい。そこで飛車を引きたいが、☖6二飛は☗9七角が☗5三角成の先手になる。そのため☖6三飛と引いたがそれでも☗9七角と出てきた。藤井五段は☖6四銀とがっちり投入し、佐藤五段も☗5六金打と打ち、位取りらしい厚み負けしない手が続いた。しかし☗5六金は、☖5五歩で☗4五金とせざるを得ず、すぐ6筋に利かなくなる。金をそっぽに行かせ、☖6五歩~☖7四歩~☖7三桂が入りますます玉頭が厚くなり、藤井五段のリードが広がっているように見えた。
55手目☗3六歩。佐藤五段は☗4五金を頼りに2~3筋からの攻めに勝負をかけた。5筋~玉頭を放棄するので勇気ある方針転換だった。58手目☖8五桂は角銀両取りだがそれも放置して☗3四歩と取り込む。後手としては64手目☖3三同桂が☗4五金に当たるのが気持ちが良い。66手目☖4五歩と追い打ちをかけたところで☗8六桂は佐藤五段のさらなる勝負手。金を見捨てて☗7四桂を狙う。しかし☗7四桂☖8一玉で8二に打つ駒はまだ無い。先手の狙い筋は☗2四飛~☗2一飛成~☗6一竜~☗8二金や、☗2四飛~☗6四飛~☗8二銀~☗7五角のような手があり、案外油断できない。よく見ると☗8九玉が位から遠ざかっており捕らえるのも大変そうだ。後手としては受け切りを目指すのが妥当か。
72手目☖7三銀は先手の狙い筋を防ぐ手堅い受け。ところが☗4二角という手があった。☖7四銀は☗6四角成があるので桂馬を取れない。☖5三桂も☗3三角成~☗7五桂がある。☗7五歩まで歩が伸びるとまた桂馬を取れない。藤井五段は時間を使いきって☖2三歩。☗6四角成を催促し☗2三飛成を強要。得た手番で☖7三歩。これはなんとか桂を取り切れるか。
84手目まで、金は取られたがついに桂を取り切った。
後手玉の脅威はなくなったかと思ったが85手目☗6二歩がしぶとい。藤井五段は☖4一飛から耐えようとするが、☗6三金~☗2四竜~☗6一銀でついに攻めが続く形になった。攻めが続くと先手の勝ち。痛恨の逆転負けとなってしまった。もし本譜で先手の攻めが続いてしまうのであれば、58手目☖3五同歩とまだ面倒を見た方が良かっただろうか。
評価値
☗4二角とされてもまだ後手が優勢だった。ただ藤井五段の想定していない将棋になってしまったところで一分将棋になったのではないかと想像する。82手目、桂を取った手で互角に戻った。☖7一金とさらに耐えた方が良かったとのこと。しかし本譜でも耐えていると思った。佐藤五段が苦しそうなところ、見事に攻めを繋げた将棋だった。
ちなみに☗3五歩に☖同歩と取ると、☗3四歩~☗5八飛で再び中央を目指される手段が生じるようだ。
参考文献
- 藤井猛著『藤井猛全局集 竜王獲得まで』(日本将棋連盟発行/マイナビ出版販売)
- 藤井猛著『四間飛車の急所 第1巻』(浅川書房)
棋戦情報
第45期王将戦一次予選(主催:毎日新聞社、スポーツニッポン新聞社、日本将棋連盟)