1993/3/10 伊藤能四段—藤井猛四段(棋王戦)

感想

伊藤能四段との戦い。三浦弘行九段と同時期に四段になった棋士。

戦型は藤井四段の四間飛車に伊藤能四段は急戦模様。一般的な対抗形だが、四間飛車の美濃囲いの形、左銀の位置、左香の位置、端歩の関係、居飛車の玉型、仕掛けの形によって幾通りのパターンに分かれる。本局の四間飛車は対鷺宮定跡の理想形の一つ。居飛車は鷺宮定跡に☗4六歩と突く形を採用した。

対鷺宮定跡は『四間飛車を指しこなす本』には解説が無く、『四間飛車の急所』で詳細な解説がある。アマチュアでも上級者向けの定跡で難易度が高い。『四間飛車の急所 第2巻』には図と同一局面がP.92にあるが、本譜の順は無い。しかし3筋交換に☖3二飛、☗4五歩に☖4二金、角や飛車をぶつけて大駒を捌くような対応には、対居飛車急戦のエッセンスが詰まっている。

49手目に☖8八角成と角交換となり、☗3五歩から☗2四飛を狙うのは☖3三角の王手飛車がある。振り飛車不満無しと思う。しかし☗2三角が残っており楽ではない。こういうところで☖3八歩のような手を知ることができるのが棋譜並べの良いところ。じっと☗3七歩と打たれたとしても難しいが、歩を打たせることやいつでも☖3九歩成が利くのは大きい。この垂れ歩は後にと金に昇格した。

66手目☖3三桂も参考になる手。すぐ取られないし、☗2四飛と走られたきにダイレクトに取られる心配もなくなった。77手目に☗2四飛が☖5四の銀取りで実現したが、そこで☖3四歩がまた上手い。☗1二馬と☗2四飛の焦点の歩になっている。☗同飛は飛車成りができなくなってしまうので☗同馬だったが、これで銀取りが解消。そこで☖4五桂と天使の跳躍を実現させた。☖3三桂は逃げただけでなく攻めの手でもあった。

素晴らしい。振り飛車のお手本のような捌きだった。

この後、藤井四段は竜と金の2枚だけでみるみる先手玉を不安定にさせた。伊藤四段は金を逃がすのが精いっぱいだったが、とは言え駒不足の後手に金を渡すわけにはいかなかった。藤井四段だけたくさん手を指した印象だ。

96手目は☖8四香からの寄せを狙いたい。対抗形の終盤、美濃の囲いの駒を寄せに働かせることができるのも美濃囲いの長所だ。しかしよく見ると☗2四飛の横利きが残っている。そこで☖2三歩が視野の広い手だった。

この歩が取れないとなると、飛車の逃げ場がない。☗1四歩にも☖1三歩。寄せに役立つ飛車を手に入れることができた。

本局は振り飛車のお手本となる将棋だった。鷺宮定跡への対応も学ぶべきことが多いし、中盤の駒の捌き方(特に左桂の活用)、終盤の細い攻めを繋ぐ技術、最初から最後まで見どころが多かった。

評価値

評価値(Suisho5(20211123)-YaneuraOu-v7.6.3/1手15秒)

藤井猛四段の快勝譜。

参考文献

  1. 藤井猛著『藤井猛全局集 竜王獲得まで』(日本将棋連盟発行/マイナビ出版販売)

棋戦情報

第19期棋王戦(主催:共同通信社と観戦記掲載の21新聞社、日本将棋連盟)