1995/7/24 谷川浩司王将—藤井猛六段(NHK杯)

感想

谷川浩司王将と対戦。第11期竜王戦で戦うことになる二人だが、この将棋が初顔合わせとなる。

本局は序盤にやや駆け引きがあった。谷川王将が3手目☗6六歩として振り飛車を匂わせてから☗4八銀と居飛車にしたことで、藤井六段の形は☖5三銀型三間飛車の出だしになった。

谷川王将は☗4六銀と出て、さらに☗6五歩と角道も通し、大きな模様を張ろうとしている。しかし藤井六段はバランスよく駒組みを進め、☗4六銀は☖4四歩~☖4五歩で撃退し、☗6五歩も伸びすぎであると主張するように☖3一角と引いて☖6四歩からの反発を見せた。

38手目☖6二銀と引いたのが印象的。

単に☖6四歩ではなく、一度☖6二銀と引いたことで、相手に手を渡したこと、6四の地点に銀ではなく角を出られるようにしたこと、玉を固めたことなどメリットが多い。次の手が☗8八玉であり、一瞬☗6九金が浮いた形なのでここで仕掛けていった。しかし誘われている感もある。

☖6四歩に☗同歩はあまりにも注文通りなので、☗6六金と力強い対応。☖6四角とは出られないが、☖5三角とこちらから捌いていく。飛車交換を実現させた振り飛車ペースと思った。

しかし直後の☗2四歩がギリギリの手。☖同歩に☗2七歩と歩を下げ、☖3五角に☗3六歩となると角の行き場が難しい。力強い受けで立ち上がってきた☗4五金が光り輝いている。☖3六同飛成と飛車を引きながら成るしかない。

どうも居飛車ペースに見えてきた。元々難しかっただろうか。

藤井六段は再度竜を入り、桂を入手して☖8四桂~☖9五歩と端を攻めたが、味良く見えた☖6二銀が壁になっており、端攻めは本意ではなかったと思う。☗6五飛成とされいよいよ角の行き場がない。銀と刺し違えるが、再度☗4一竜と入った手が金の両取りで猛烈に厳しい。

☖5二銀と駒を節約して受け、銀を使って馬を消したが、94手目☗9七銀から突然後手への寄せが始まった。端で精算して☗8五桂は8二~7二から6筋に抜けるルートがあり、寄らないように見える。しかし103手目☗7一角!という妙手があった。

☖同金には最後☗5二竜が生じるため6筋に抜けるルートが消える。谷川王将はこの寄せが見えていたので、敢えて銀で馬を取らせていたのだった。まさに光速の寄せ。

谷川将棋は、普段あまり将棋を観ない層にも視覚的なカッコ良さを感じさせることができる。本局の寄せもまさにそうで、並べていて思わず声が出てしまった。藤井六段が負けたのは無念であるが、谷川将棋の終盤の速度を体感することができた。

評価値

評価値(Suisho5(20211123)-YaneuraOu-v7.6.3/1手15秒)

飛車交換をしたところは想像以上に振り飛車に振れていた。藤井六段としても満足の序盤だったのではないかと思う。しかし60手目☖3六同飛成からは徐々に居飛車がペースを取り戻しており、思ったより良くすることができない展開は焦りが生じそうだ。先手に大きく振れたのは84手目☖9七歩成のところ。代えて☖5二銀打☗3二竜☖7四香☗8五銀☖9五金という難解な手順が並ぶ。評価値上は少し後手に触れてはいるが、ここでは既に先手の方が良さそうに見える。

参考文献

  1. 藤井猛著『藤井猛全局集 竜王獲得まで』(日本将棋連盟発行/マイナビ出版販売)

棋戦情報

第45回NHK杯争奪戦本戦(主催:NHK、日本将棋連盟)