1993/7/16 土佐浩司六段—藤井猛四段(全日プロ)

感想

土佐浩司六段戦。大好きなカードで、早くも3局目。

これまでの対局では、藤井四段の振り飛車に土佐六段が穴熊に組みにいく形だった。本局の土佐六段も持久戦調を目指したが、☗5九銀から角道をあけながら銀冠穴熊に組みに行った。やや変則的な形だが、藤井四段の研究を外しつつ玉を固めようとする土佐六段の工夫だと思った。

先手はビッグ4と言われる、固さも厚みもある穴熊を目指している。藤井四段は駒が偏った隙を見て、角交換から☖3八角と打ち込み、☖4七角成と馬を作った。ここから4筋の歩を伸ばし、馬をどかして飛車も成り込めれば上手い。

しかし53手目☗2八飛の局面、よく見ると馬の行き場がない。藤井四段はビッグ4が完成する前に動いていったと思ったが、☗6八金という中途半端な形が逆に馬の行き場をなくしている。『藤井猛全局集』にはこの☗2八飛の局面図が載っている。誤算があったというだろうか。

角桂交換になってしまったが、藤井四段は7筋に位を張り、将来的な☖7六桂の筋を残した。また飛車の成り込みも約束されている。さらに64手目、☖4七飛成と成らずに☖4二銀としたのも冷静で、駒損を回復した上、先手の飛車の成り込みも防いだ。馬が死んでしまった辺りヒヤッとしたが、藤井四段が上手くバランスを保った。

88手目☖7九銀、89手目☗5二銀。駒の剥がし合いになった。藤井四段は金を逃がしながら耐える。96手目☖8一金と投入したところは先手の攻めが止まったのではないかと思った。しかし☗4二と がしぶとい手。後手は先手の攻め駒を一掃することはできない。そこで☖4八飛と攻防の一手を放つが、☗2二角が自陣に良く効いており先手玉が詰めろにならない。

先手の攻めが切れそうで切れなかった。結局後手銀冠を弱体化するために放たれた2枚の銀を取ることはできず、金2枚は取られてしまった。それでも後手玉は角や銀が無いと寄りづらい形をしている。

122手目から藤井四段は飛車や金を渡して厳しく追い込んでいく。しかし☗9三玉の形が寄らず、先手の勝ちがハッキリした。

先手の攻めはギリギリだったと思う。最後までどちらが勝つか分からない熱戦で面白かった。どちらかが一方的に勝ちという感じではなく、何度か形勢が入れ替わったのではないだろうか。特に中終盤は後手にもっと良い受けがあればというところだったかもしれない。ただ、既に一分将棋でもあったし、先手の攻めが途切れなくなった時、先手玉を仕留めるには固く、遠かったのもつらい。結局土佐六段が穴熊らしく、陣形差の利を活かして勝ち切った将棋だと思った。

評価値

評価値(Suisho5(20211123)-YaneuraOu-v7.6.3/1手15秒)

馬を作ったところはやや後手に振れ、馬が死んだ後は先手に振れ、再び角を取り返したところでまた互角に戻っている。概ね印象通りだ。駒の剥がし合いのところは再度先手に振れているが、☖4二と からは後手に振れている。しかし102手目☖7一同玉で再度先手に振れた。藤井四段はここで一分将棋に入った。そこからみるみるうちに先手が勝勢になっていったが、最終盤、120手目☖7七歩成のところは先に☖7八竜と切り、☗同金☖7九金から千日手に持ち込めるチャンスがあったと言う。

参考文献

  1. 藤井猛著『藤井猛全局集 竜王獲得まで』(日本将棋連盟発行/マイナビ出版販売)

棋戦情報

第12回全日本プロトーナメント(主催:朝日新聞社)