感想
先崎学六段との戦い。先崎六段とは過去3戦3勝。前局は力戦になった。
本局も3手目☗4八銀と振り飛車党の藤井六段に挑発的な手を指してきた。藤井六段は11分考えて☖8四歩。挑発に乗る形ではあるが、今は対居飛車穴熊居玉四間飛車の研究に力を入れている時。力戦相居飛車になるのはかえってありがたい面もあったのではないかと思う。
藤井六段は早々に☖3一角の形を作り、8筋の歩交換の権利を得た。先崎六段は☗5九角から菊水矢倉の形を含みにし、また☗3七角から飛車のこびんも狙う構想を見せた。藤井六段だけ歩を手持ちにする展開であり、後手としてはまずまずに見える。
そしてその1歩を具体的な良さに持っていくのが藤井将棋の良いところ。☗2六歩~☗2五歩としていないのを逆手に取り、36手目☖3五歩と早速突っかけた。飛車のこびんを狙う☗3七角をどかし、☖3六歩~☖3五銀と3筋を制圧した。
先崎六段は☗6八角から☖3五銀の除去を目指すが、藤井六段は☖6四歩と次々と厳しい手を飛ばしてくる。次に☖6五歩となれば☗6七金☗6九玉型の先手陣への大きな拠点となる。☗7九玉~☗8九玉と早逃げをするが、結局6筋に拠点が出来上がった。藤井六段が作戦勝ちから有利を拡大している。
55手目☗5六銀の局面は5四の銀をどかして☗6五桂と跳ね、拠点を取り払う狙いがあるが、ここで☖4四銀と柔らかく引いたのが感動した一手。
既に3筋の制圧よりも6筋の拠点の方が勝負に直結する局面になっている。中央の小競り合いの末、角金交換という結果になったが、☗6四銀と☖6六銀の働きは☖6六銀の方が圧倒的に良く、しかも手番は後手。ガツンと☖6七金と打ちこんで攻めの圧力を掛けていく。さらになるべく先手の大駒を無力化しながら巧みに2枚のと金を作り、勝勢となった。
91手目☗6三銀成の局面は後手陣も危なくなりいかにも決めに行くところ。
直感は☖8六飛だがすぐに寄せられる手がある訳ではなく、また角が利いているので☖3一玉のようにいったん玉を安全にするということもできない。決めようとすると案外難しい。藤井六段は☖8六飛☗同歩にそこで☖3一玉という組み立てを見せた。なるほど、「玉の早逃げ八手の得」というが、これで深く玉を避難させることができるようになり、相当寄らなくなった。その後も後手玉に迫る手順はあるが、本譜のように☖6六角の攻防手も絡め、迫られた手を利用する形で後手玉は寄らず、先手玉は受け無しという局面になった。見事な終盤でもあった。
評価値
参考文献
- 藤井猛著『藤井猛全局集 竜王獲得まで』(日本将棋連盟発行/マイナビ出版販売)
棋戦情報
第37期王位戦予選(主催:新聞三社連合、日本将棋連盟)