1991/8/3 森安秀光九段—藤井猛四段(早指し選手権戦)

感想

振り飛車党タイトル経験者、森安秀光九段との戦い。『藤井猛全局集 竜王獲得まで』には、今では本の中でしか見ることがない棋士との戦いも多い。棋譜が残っているだけでその棋士の姿を生々しく感じることができる。『藤井猛全局集 竜王獲得まで』の良いところの一つだ。

森安九段は先手早石田を採用した。藤井四段の対応策が見ものであったが、右辺にほぼ手を掛けず、玉頭に大模様を張った。このような将棋は今ではほぼ見かけない。前局千日手局となった松浦五段戦の名残も感じられる。面白い将棋になりそうだと思った。

森安九段が早めに☗8六歩~☗8五歩と伸ばしたことで、藤井四段の飛車の動きが牽制されている。理想は☖2一まで飛車を持っていくことだが実現しそうにない。☗9五歩☖7二金となってますます飛車が動きづらくなった。しかし☖7二金と上がらないと☗9四歩~☗9二歩の筋がある。しかしそれでも森安九段が☗9四歩から動いてきた。ここで8~9筋の歩交換ができるとは……。中盤の入り口は森安九段が機敏な動きを見せて、藤井四段が我慢する展開になった。

戦いにさえなれば玉頭から攻め合えると思っていたが、森安九段の方から☗2六歩から位に反発した。森安九段の手に触れることが多いが、本局、中盤は森安九段の指し回しにが印象に残ることが多かった。大事な位を奪還され、☖2二歩とさらに我慢した。形勢も森安九段の方がやや指しやすいと思った。

藤井四段がじりじりと手を指していく中で、84手目☖7四金からやや風向きが変わったように感じた。苦しい時に遠く足が遅い駒を活用できる手を指せるのは大きい。☗9七桂とさせたことで馬が7七から活用できる見込みが立ってきた。さらに☖5六歩☗同歩を入れてから☖3四銀と投入し、難しい勝負か、むしろ後手が有望になったように見える。☖6六馬と引けるのも大きく先手から反発しづらい。玉頭戦は駒の多さ(厚み)が大事なのが良く分かる。

美濃囲いの金と☖7四の金が交換になった上☖5五馬が入ったので、ここからは後手がかなり良いと思う。そして☖3五歩(112手目)は待望の玉頭攻めだ。さすがこの頃から既に藤井四段の玉頭戦は魅力的で、ここから一気に玉頭を制圧し、☖1七銀(126手目)と鋭く寄せた。

序盤で広げた大模様、一部破られはしたものの結局玉頭から押し切った。藤井四段の見ごたえある玉頭戦だった。

評価値

評価値(Suisho5(20211123)-YaneuraOu-v7.6.1/1手15秒)

先手良し→後手良しという流れはイメージ通りだったが、☖3四銀(92手目)と投入したところは先手が良く差が縮まっている感じではなかった。それよりも☗5七金☖5五歩のところで一気に互角に戻っていた。大事なところの形勢判断が間違っているとちょっと悲しくなる。

参考文献

  1. 藤井猛著『藤井猛全局集 竜王獲得まで』(日本将棋連盟発行/マイナビ出版販売)

棋戦情報

第25回早指し選手権戦本戦(主催:テレビ東京)