感想
五番勝負第2局。舞台は三重県菰野町に移った。前局では二転三転する将棋を落としてしまった。0-2になるかタイに戻せるかの大事な勝負だ。
戦型は藤井猛六段の四間飛車に屋敷伸之七段の居飛車穴熊。ただし、☖1四歩を突いての居飛車穴熊だ。今では当たり前だが当時は珍しい。明らかに屋敷七段が用意した作戦で、藤井六段の意表を突いた。次の☗4六歩に15分かけているところにもそれが表れている。
41手目☗4九飛の局面は真部一男八段戦(1991/9/20・王位戦)や高橋道雄九段戦(1994/2/22・王座戦)と同じ局面(9筋の端歩を除く)。

意表を突かれはしたが、藤井六段は経験のある局面に持ち込もうとしている。
55手目☗9八香。

高橋道雄九段戦(1994/2/22・王座戦)では☗8八角だったが、藤井六段の方から手を変えた。この辺りもまた屋敷七段の研究を警戒しただろうか。
60手目、屋敷七段は☖8六歩から動いていく。あまりにも軽い動きだが、74手目☖7六飛が局面図に採用された面白い一手だった。

角も銀も質になっており、☗6八角と引けない上、☗7五歩と止められる手からも逃れている。さらに☗6七金と当てに行くのは☖7七飛成に☗同金とするしかなく、駒がどんどん離れて行ってしまう。そこで☗4八飛と一つ浮いて飛車に紐をつけたが、☖3五歩から玉頭に手がついた。後手も持ち歩がギリギリだが手になっている。その上☖3三銀右と固められる余裕もあった。居飛車が上手くやっている印象だ。
91手目☗5五歩☖同歩☗同銀から藤井六段も駒を前に進めていって勝負を賭ける。☖7三桂☗4四歩☖6五桂☗4三歩成と激しい攻め合いに突入した。

藤井六段も戦線拡大を図っている意味があり、激しい戦いは歓迎だろう。101手目☗3二金まで、かなり喰らいついている。ただし、屋敷七段もこの攻め合いは自分に分があると思っている雰囲気も感じられる。
114手目☖1三玉で角か銀が入れば一手詰の形。

しかし☗5六金は☖3七角成から詰んでしまう。攻めの手がないので駒を使ってもらうしかない。☗2七金打とがっちり守った。そこで☖4七歩も凄い。何かないのだろうか。☗1五歩は厳しい手だが、☖2四歩で逃げ道が開く。屋敷七段は先手から有効な手が無いのを既に見切っていた。
特に差がついたわけではないが、序盤に意表を突かれ、中盤に主導権を握られ、終盤は斬り合いを見切られた。この将棋に対する藤井六段の評価は「完敗」だった。
評価値

攻め合いの局面も大きく差がついている訳ではなかったが、居飛車が主導権を握っている印象であった。終盤は居飛車が勝勢になっており、屋敷七段の見切りの早さに驚く。
参考文献
- 藤井猛著『藤井猛全局集 竜王獲得まで』(日本将棋連盟発行/マイナビ出版販売)
- 『近代将棋』1996年7月号
棋戦情報
第14回全日本プロトーナメント(主催:朝日新聞社、日本将棋連盟)
2025年6月16日許諾済み



