感想
伝説の棋士と言える加藤一二三九段との対戦。言わずと知れた棒銀の大家だ。
本局は自戦解説掲載局。自戦解説の冒頭で、藤井六段は加藤九段と戦うことの感慨深さを語っている。
戦型は期待通り、藤井六段の四間飛車に加藤九段の棒銀となった。ちょっと面白いのは、序盤の☗1六歩(玉側の端歩)を加藤九段が受けなかったこと。自戦解説によると加藤九段も早めの端歩を受けないことが多いようだ。藤井六段も加藤九段も独特のこだわりを持って勝ってきた。そういう点では波長が合う二人かもしれない。端歩を受けなかったので、珍しく対急戦で振り飛車の方が端の位を取った。
端だけ見ると振り飛車が得をしているがそんな単純な話ではない。加藤九段は端以外で良くしにいくと宣言しているようなもので、このような序盤は見ていて興奮する。
端の位を取ったことで振り飛車の方が後手番のような受け方になっている。自戦解説では途中☖9五銀の加藤流棒銀に触れられており、有力な変化だと結論付けられている。この辺りの攻防は『四間飛車の急所 第3巻』(浅川書房)に詳しい。本局は加藤九段が☖9五銀からの仕掛けを見送り、☖4二金上と引き締めた。そして藤井六段は☗6八金に構えた。
神谷広志六段戦(1993/2/22・NHK杯)以来の採用だ。
藤井六段は通常の対棒銀定跡はあまり好みではないようで、この☗6八金型を好み、よく研究していたことが書かれている。ただ、この形は優秀と言われているが指しこなす難度は高い。本局のように四間飛車の大家と棒銀の大家の実戦例があると嬉しいものだ。
☗6八金型に突破口を見出せず、加藤九段は仕掛けられず手待ちを繰り返すこととなった。その間に藤井六段は美濃囲いを膨らませ、自陣の発展性をひろげ、駒の動きを自由にした。特に角の可動域が広い。先手の作戦勝ちだ。
最も良い形になったところで☗5七金と局面を動かしに行く。☖6五歩の仕掛けを誘っているようだ。そこでノータイムで☗7七桂。☗6八金型の先を研究していることが感じられる。
57手目☗7五歩は、形が違うが『四間飛車の急所 第3巻』では危険とされている手。☖7六歩☗6五桂☖同飛!☗同金☖7七歩成という強襲がある。本譜は2筋の位を奪還しに来た。☖2四角の形になれば☖4六角と出る味が生まれる。
65手目☗5八銀が非常に味良い手。
☗6六金がいなくなればこの銀が浮く形であったが、それを解消しながら陣形を引き締めている。この手を見てますます差が広がっていると思った。ただ、まだ単に☖4四歩とされていればまだ大変だったようだ。
この辺りから恐らく苦しいと見ていた加藤九段に勝負手が飛んでくる。しかし藤井六段はそれを全て冷静に対処し、終わってみれば加藤九段相手に圧巻の内容で勝ち切った将棋になった。
評価値
美しさすら感じる右肩上がり。作戦勝ちを勝ちに結び付ける将棋であり、並べていて気持ちの良い将棋だった。
参考文献
- 藤井猛著『藤井猛全局集 竜王獲得まで』(日本将棋連盟発行/マイナビ出版販売)
棋戦情報
第67期棋聖戦二次予選(主催:産経新聞社、日本将棋連盟)