感想
順位戦昇級者同士のトーナメントであるIBM杯。本局はB2→B1級昇級者の森内俊之七段との対戦。準決勝という舞台だ。森内七段とは2局目。前局は1991年度で、相穴熊のこってりした将棋だった。久々の対局となる。
本局藤井五段は後手。戦型は藤井五段の四間飛車に森内七段の天守閣美濃となった。森内七段が☗4九金型のまま駒組を進め、☖8四歩と突かれる前に☗5七角と構えたのが工夫と思われる。非公式戦ながら当時の研究最前線の将棋だと思う。先に☗3六歩と突くことで3筋からの攻めも見せており、☖5四銀と上がりにくい味もある。ちょっと手順が違うだけで雰囲気がかなり異なる。
本譜の36手目☖8四歩~46手目☖8五同桂までは『藤井システム』(毎日コミュニケーションズ)で解説されている。「難解。この攻め合いは難しく、力自慢の振り飛車党にしかお勧めできない。」と結論付けられており、36手目は☖6三銀引を本手としている。本譜は☖8四歩の貴重な実戦譜ということになる。
ここからは研究の先の将棋。49手目は後手は銀桂交換の駒得を果たしているが、後手陣の隙が多く☗3七角が止めづらい。そこで藤井五段は4筋の飛車打ち+☖4六歩で角道を止めたが、森内七段は飛車を合わせて無理やりこじ開けようとしてくる。57手目となっては☖4六歩を守れなくなってしまい、先手がリードを奪ったか。しかし藤井五段は☖6四銀と空中に銀を埋め、さらに64手目☖8一飛とし、角筋の攻めを緩和しつつ玉頭攻めを目指した。力のこもった攻防手連発で非常に見応えがある。しかし藤井五段の残り時間は3分しかない。
ここからの森内七段の指し回しは落ち着いていた。☖8一飛に対してじわっと☗8五歩~☗8六桂と飛車道を止め、端攻めも絡め、後手は飛車を取られてしまった。途中☖8二飛という手を見て、もしかしたら☖8一飛ではなく単に☖8二飛の方が良かったということもあるかもしれない。
93手目☗9二飛は取られた飛車の逆襲で、次に☗6四角と角を切る手が受けづらい。☖4三銀☗3一飛成と少し手を稼いで攻め込んでいったが、☗6八金上や☗9三飛成など自玉を安全にする手が合間に入り、どこまでいっても先手玉が寄る形にならない。
本譜は振り飛車が悪くないと信じたいが、☗3七角の威力を目の当たりにした。
評価値
印象とかなり異なった。まず49手目☗7七同桂の局面は600点程度先手良しで、残念ながら思いのほか大きく先手側に振れていた。それだけ☗3七角が厳しいということか。最も意外なのは83手目☗9二飛からは後手に振れていること。対局者心理としては難しくなっている印象はあったのだろうか。94手目は☖6八とではなく☖7八とと銀を取った方が☗9三飛成に☖8二銀と打つ手がありチャンスがあったようだ。☗9五竜で安全になるようで、上部が詰まっているとも言える。
参考文献
- 藤井猛著『藤井猛全局集 竜王獲得まで』(日本将棋連盟発行/マイナビ出版販売)
棋戦情報
第6回IBM杯戦準決勝(主催:毎日新聞社、サンデー毎日、日本将棋連盟)