1994/6/14 阿部隆六段—藤井猛五段(順位戦)

感想

第53期順位戦が開幕した。前期昇級を果たした藤井五段はC級1組として戦う。初戦は阿部隆六段。阿部六段とは過去2戦2敗1千日手。いきなり勝負所と言える。

戦型は藤井五段の四間飛車に阿部六段の玉頭位取り。本局の藤井五段の駒組みは玉頭位取りに対する最有力策と言える☖4四銀型。この形は『四間飛車を指しこなす本 第3巻』や『四間飛車の急所 第1巻』に詳しい解説がある。しかし本局は☖5四歩が早く、☗7六銀に対して☖6三金が間に合っていないように見え、33手目☗6五歩とするとどうなるのか気になった。そうなると☖5三金から変化の多い戦いになりそうだ。阿部六段はノータイムで☗7七角としたため、玉形が薄い間は戦いにするつもりはなかったかもしれない。

44手目☖4一飛の局面は『四間飛車の急所 第1巻』で「最強の構え」と言われる形。☗8五歩なら☖5一飛と中飛車にスイッチする。本譜の☗6七金に対しては☖5五歩が定跡手順。途中の☗2四歩には☖同歩とするといつでも☗2三銀があるので☖2四同角と取るのが形。58手目☖6五同金で後手良しとされている。確かに☖6五の拠点が強烈だ。

ここからは定跡の先の将棋。藤井五段は拠点を活かし6六の地点からガジガジ攻める。72手目に結局中飛車にスイッチする手が実現し、これが歩切れのため受けづらい。

☖2四角のラインも効いている。阿部六段の67手目51分、73手目67分の考慮時間は苦しい時間だったと思うが、それでもこれだけ考えられる精神力がすごい。

結局飛車の成り込みに成功した藤井五段は先手玉側の桂香を拾い、形を作った阿部玉を寄せた。

玉頭位取りに対して完璧とも言える将棋。☖6五同金までの手順の初出はいつだろうか。現状、将棋ファンはそういったことが調べられないのがつらいところ。四間飛車の見事な定跡という一局で、居飛車は二度と同一局面にしないと思われる将棋だった。

評価値

評価値(Suisho5(20211123)-YaneuraOu-v7.6.3/1手15秒)

完勝譜

参考文献

  1. 藤井猛著『藤井猛全局集 竜王獲得まで』(日本将棋連盟発行/マイナビ出版販売)

棋戦情報

第53期順位戦C級1組(主催:毎日新聞社、日本将棋連盟)