感想
郷田真隆五段戦。これが3局目で。いずれも藤井五段の四間飛車に郷田五段が急戦調で仕掛ける将棋で、郷田五段が工夫を凝らしてきているのが分かる。
本局も藤井五段の四間飛車に、郷田五段が急戦を仕掛けた。居飛車穴熊や天守閣美濃が主流になりつつある時代に常に急戦というのは清々しさを感じる。
藤井四段の四間飛車は☗4六歩型美濃囲い+☗7八銀型+☗9八香で最も美しい形。対して郷田五段はまたも仕掛けが遅く、四間飛車の最善形を崩そうとしている。26手目☖4二金に☗5六歩。☗9六歩もありそうだが端の交換は入れなかった。☗4六歩型であれば☗5六歩はあまり突きたくないが、次に☗4五歩となればまた良い形になる。この瞬間、☖7二飛として仕掛けの形が決まった。持ち時間3時間の棋戦であるが、この☖7二飛に44分考えているのが素晴らしい。郷田将棋も藤井将棋も実戦でしか得られない読みの蓄積を大事にしており、それが後の将棋の糧になっている。
7筋の突き捨てから☖6四銀と出る仕掛けとその対応は部分的定跡手順。ただし38手目☖3三角は初めて見た。角を打つような場合、『四間飛車の急所 第2巻』では☖7六歩☗7八飛を入れてから☖4四角と打つような変化が解説されており、相当難解な変化に突入する。本譜☖3三角は、☗7八飛に☖7六歩なら似たような変化に合流するが、先に☖3三角と打ったからには別の将棋になりそうだ。藤井五段もここで37分使っている。果たして、郷田五段は☗7八飛に☖7七歩と打った。
56手目☖7一歩まで。お互い飛車を捌き合い、駒の損得はなし。ただ、☗7九歩と打っているため☖7一歩の底歩が堅い。さらに☗5六歩型美濃囲いの薄さが気になる。美濃囲いと舟囲いなのに居飛車の方が玉形が良いように見える。また、☗8三歩成とと金を作ったが、竜が抜かれてしまうためこのと金を動かせないのもつらい。互角と思ったが徐々に居飛車の方が少しよいのではないかと思えてきた。
郷田五段はセオリー通り☖6六桂~☖5八銀と金をはがしに来る。藤井五段は側面からの攻めではなく、☗2五桂と角を追いながら玉頭からの攻めにスイッチした。攻め合いではあるが、郷田五段は冷静に角を逃げ、最終的には☖3五角という安住の地を得た。これが☖7一歩に紐をつけ、1七の地点への端攻めも狙える位置。☗3六歩とさらに追うと☖4六角が王手になるのでこれ以上角を追いづらい。
なかなか後手玉が見えず先手が苦しそうだが、☗2五桂を取らせる間に今度は☗8四角とまた横からの攻めを目指す。右に左に揺さぶりをかけている。しかし☗8四角をあっさりと☖同竜と取ったのがなるほどの手。竜は美濃囲いを攻める鍵になる駒と思ったが、端攻めがあるので横からの攻めにこだわらなくても良い将棋になっていた。☗3九金を強要されており、玉の逃走ルートがないのがつらい。
そしていよいよ端攻めが始まり、最後は☖1七角成が決まった。藤井五段の悪い手がひとつも分からないまま郷田五段が優位を築いていた。
評価値
全然形勢判断が違った。70手目☖2五歩と桂馬を取られたところはむしろ先手の方が1000点近く良い。藤井五段の対応は見事で、桂馬を取らせる構想も素晴らしかったと言うことになる。しかし端攻めが始まってから急激に悪くなってしまった。☗6一飛と打ちおろすところでは一度☗3六歩と角を追うのが良かったという。☖6二角のような手で状況が変わらないように思えるが、将来☗3七銀と余す筋ができる。ただ、時間切迫もあり、評価値ほど先手が良い、勝ちやすいという将棋ではなかったと思う。
参考文献
- 藤井猛著『藤井猛全局集 竜王獲得まで』(日本将棋連盟発行/マイナビ出版販売)
棋戦情報
第13回全日本プロトーナメント(主催:朝日新聞社)