感想
第9期竜王戦初戦、石川陽生五段との一戦。石川五段とは過去1戦1勝。
前局では藤井六段が四間飛車、石川五段が天守閣美濃という戦型だったが、本局は3手目に藤井六段が☗2六歩と早々に居飛車を明示した。対する石川五段は三間飛車に構えた。囲いは藤井六段は居飛車穴熊に、石川五段は美濃囲いとした。
石川五段は美濃囲いに組んだ流れから早々に☖5四銀~☖6五銀と玉頭銀を繰り出していく。居飛車穴熊に☗8八銀とハッチを閉められはしたが、金2枚は定位置のままであり、右銀も4八にいる。居飛車穴熊が不十分な状態で局面を動かしに行く意志を感じる。
藤井六段は☗7五歩と美濃囲いへのこびん攻めを見せながら玉頭銀をかわしていく。対する☖4二角は☖5四歩~☖7五角を見て☗7五歩を咎めているように見えたが、☖7五角の瞬間に☗2四歩があるのでこの歩は取れない。そこで☖1五角と端に出た。☗1六飛☖4二角☗2六飛☖1五角☗2六飛…という千日手筋もよぎるが藤井六段は☗2八飛。☖3六飛と走られても問題ないと見ており、対する☗7四歩が☗7五歩の流れを継承した一手。
☖7四同銀はせっかくの銀がバックしてしまうし☖7四同歩は☗4六角がいやらしい。結局この歩は取れずに☖3七歩と垂らしたが、☗7三歩成☖同桂と後手陣を乱すことに成功した。
☖3七歩は放っておくと☖3八歩成☗同飛(☗同金は☖4八角成☗同金☖3九飛成が飛車金両取りで☗6九金型の弱点を突かれている。☖3七歩とせずに☖4八角成は☗同飛がある)☖同飛成☗同金☖4九飛から金銀との二枚替えに持ち込めそうだ。そこで☗5七銀と軽くかわす。本譜の変化は☗4九金の形を活かしているとも言える。
☖6四歩~☖6三金は桂頭を守りながら形よく☖5四銀と引く準備だったかもしれないが、藤井六段は☗1六歩から飛車交換したあと☖3一飛~☖5二歩と完全に石川五段の裏を突いた。
金が動けば☗3五銀の角捕獲が厳しい。この垂れ歩は取れず、玉の近くにと金を作った藤井六段の優勢がハッキリした。
本譜も結局角を入手し、穴熊を崩すために投入した駒も手にして寄せに入った。70手目☖8一金の局面が途中図に載っているが、これは「決め手を発見してください」という図。こう示されて自分でも☗8一竜を発見し、藤井六段の短手数快勝譜を堪能した。
本局は☗7五歩~☗7四歩という嫌みの付け方や、☖6三金と動いた瞬間の☗3一飛~☗5二歩と相手の手を悪手にする手順が印象に残った。
評価値
一度も後手に振れることのない快勝譜。
参考文献
- 藤井猛著『藤井猛全局集 竜王獲得まで』(日本将棋連盟発行/マイナビ出版販売)
棋戦情報
第9期竜王戦ランキング戦4組(主催:読売新聞社、日本将棋連盟)