1994/6/30 藤井猛五段—南芳一九段(王将戦)

感想

王将戦二次予選、南芳一九段との対局。南九段は藤井五段がプロデビューした頃タイトルを争う程の活躍を見せていた。タイトル戦登場回数16回、タイトル獲得数7期の実績を持つ。藤井五段が戦うステージが徐々に上がってきている。

本局は『藤井猛全局集 竜王獲得まで』自戦解説掲載局。

戦型は藤井五段の四間飛車に南九段の天守閣美濃。自戦解説では南芳一九段、高橋道雄九段を左美濃の大家と紹介している。藤井五段の研究、一段玉型の構えが南九段に通用するか。高橋九段には既に1992年度にぶつけている。

25手目☗3七桂。

藤井五段得意の構えに対し、南九段は26手目☖1二玉。高橋九段と同じく玉頭攻めから遠ざかった。この持久戦を藤井五段は「お互い一手の価値が薄まる持久戦」と表現している。

33手目☗5八飛。通常☗6七銀としそうだが、自戦解説ではこれを「工夫の手」としており、その意図が書いてあった。本譜のような☖6四歩~☖6五歩はあまり見かけないため自分としては警戒度が低い。自戦解説を読むとプロの序盤がいかに洗練されているかが分かる。

35手目☗4五歩。この瞬間に突くと☖4四歩の反発が気になるところ。振り飛車の☗4五歩は肝になる一手だが、☖4四歩☗同歩☖同銀☗4五歩☖3三銀のように固めさせて損になることがある。本譜このタイミングでの反発は当然藤井五段の読みにあり、その対抗策もまた自戦解説に掲載されている。この辺りは☗2六歩を見事に活かしている。

先手は銀冠に組まなかったが、49手目☗5八銀までいくとダイヤモンド美濃より堅いと評判の好形になっている。☗4五歩の位も安定しており、振り飛車不満の無い展開になっていると思う。

55手目☗6七銀は並べていても工夫を感じた手。

元々6七にいた銀を5八に引いたこと、また☗5七銀~☗4六銀というビジョンを見ていたため、感覚的に☗6七銀とは上がりづらく、☗5七銀としてしまいそうなところ。しかし☗5八飛を効果的にするため、☗6七銀とするのが良い。59手目☗5六銀で49手目とはまた違う好形になった。

先手だけどんどん好形になっていくため、後手は暴れてくるしかない。しかし71手目☗6八飛は自分でも藤井五段が一本取ったと分かった。自戦解説によるとやはり70手目☖6五桂が失着と書いてあった。先に☖5八角成を入れておけば本譜のカウンターはなく、南九段痛恨の手順前後だった。

大きな差を得た藤井五段がどう勝つかというところも棋譜並べの楽しみの一つだが、藤井五段は最短の勝ちを目指した。79手目☗5三桂成。

☖4九馬☗同銀☖6八飛の王手角取りになるが、角を手にして端攻めで先手が勝てると見切っており、実際ぴったり一手勝ちを決めた。鮮やかな勝ち方で、藤井将棋を好む一因となっている。

時のA級棋士である南九段にこの勝ち方。藤井五段はまずます自信をつけていったのではないかと思う。

評価値

評価値(Suisho5(20211123)-YaneuraOu-v7.6.3/1手15秒)

70手目☖6五歩は失着ではあったが、既に先手が指しやすい形勢になっていたようだ。非常に細かいところで藤井五段がポイントを重ねた序盤だった。そして良くなってからは最短で勝ちを目指し、実際に勝ち切る。見事な藤井将棋。

参考文献

  1. 藤井猛著『藤井猛全局集 竜王獲得まで』(日本将棋連盟発行/マイナビ出版販売)
  2. 小倉久史・杉本昌隆・藤井猛『振り飛車党宣言!④四間飛車対左美濃』(毎日コミュニケーションズ)

棋戦情報

第44期王将戦二次予選(主催:毎日新聞社、スポーツニッポン新聞社、日本将棋連盟)