1994/12/6 藤井猛五段—伊藤果(順位戦)

感想

7連勝中の藤井五段と2勝4敗の伊藤果六段の戦い。伊藤六段とは初手合い。順位戦も終盤に差し掛かったが、負けなしで突っ走っている。順位戦以外も勝率が高く、文字通り勢いがある。

本局は相三間飛車。先手は角道を止め☗6七銀型。後手は角道を止めず☖5三銀型で、角道は開いているがどちらかというと受け志向な感じがする。藤井五段は比較的早く☗6五歩と突き、角交換を迫りながら模様を張り、先手番らしく序盤から積極的な姿勢を見せた。

38手目、角が向かい合っている状態だったが☖5五歩と角道を止め☖5四銀~☖6五銀を狙う。藤井五段はすかさず☗5六歩と反発。これで手順に乗って左銀と左桂を前に出していくことができた。47手目☗5五銀の局面は先手の駒が伸び伸びしており、模様が良いと思う。特に相金無双であるため、☗6五歩と☖4三歩の歩の違いが大きく見える。

飛車の横利きが止まり、51手目に8筋の歩交換ができた。伊藤六段は単に☖8三歩と収めるのではなく、銀冠に発展させていく。☖8二玉~☖7二金までいけば6筋の位から遠ざかることができる。しかし57手目☗6六角が名角!

☗3五銀☖同銀☗3三角成や☗8五歩☖同歩☗8四歩☖同銀☗7四歩と左右どちらにも狙いがある。

藤井五段はまず左辺の攻めを敢行。銀を引かせて☗8五桂と跳躍。飛車に角の紐がついた点も見逃せない。左辺で大きなポイントを稼ぎ、そして今度は右辺の攻め出た。左に右に、藤井五段のパンチがどんどん入って気持ちが良い。

73手目じっと☗8六飛がなるほど。歩を払いつつ中央への展開を狙ういかにも味の良い手。☖2四飛で☗3四銀の逃げ場がないが、ここから角を切り、☗4三銀打で銀をつないで狙いの☗5六飛が実現した。ただ☖3四角~☖4三角で攻め駒を一掃されてしまうプレッシャーがある。しかしそれでも勝ちと見切った☗7二歩成が見事な決め手。ここでの投了図は美しい。

投了図以下、☖3四角☗6二と☖4三角と金銀取られてしまうが、☗5三飛成が想像以上の激痛。☖4二金は☗5一竜で詰みだし、☖4二銀なら☗5二金から駒を取りながら攻めが続く。☗5三飛成に☖3一玉くらいだが、☗4三竜とボロっと角を取れ、やはり攻めが続く格好だ。

本局は金無双が手つかずのまま勝ち切った将棋で藤井五段の快勝譜。積極的で、かつ的確な指し回しが印象的であり、藤井将棋の美しい勝ちパターンの一つ。

これで順位戦8連勝。連続昇級が現実味を帯びてきた。

評価値

評価値(Suisho5(20211123)-YaneuraOu-v7.6.3/1手15秒)

☗6六角の前から先手の模様が良いと思っていたが、評価値はほぼ互角だった。☗6六角の後から先手に振れ比較的短手数で勝ちまで持って行った。

参考文献

  1. 藤井猛著『藤井猛全局集 竜王獲得まで』(日本将棋連盟発行/マイナビ出版販売)

棋戦情報

第53期順位戦C級1組(主催:毎日新聞社、日本将棋連盟)