1994/11/30 米長邦雄前名人—藤井猛五段(王位戦)

感想

米長邦雄前名人との戦い。米長前名人とは3戦目だが、過去2連敗。『藤井猛全局集 竜王獲得まで』を並べていると、昭和から活躍する棋士の強さも知ることができる。戦型は米長前名人が棒銀や☖7三銀上準急戦を採用しており、左銀系の急戦がメインだ。

本局戦型は藤井五段の四間飛車に米長前名人の☗4五歩早仕掛け。先手は☗6八金型だが☖1四歩と指しているので☖7四歩が入らない形。藤井五段の☖1四歩は常に注目したいが、本局は米長前名人の棒銀を意識した手のように思える。藤井五段の真意はどうだったろうか。

45手目は☗3三桂☖5一飛として馬を助ける定跡もあるが、米長前名人は☗1一馬☖同飛☗4七香。

これは郷田新手が生まれる前の『四間飛車を指しこなす本 第1巻』で紹介されている変化。そこでは☖4一飛寄☗4四香☖同飛☗同角☖同飛という手順が示されているが、本局は51分の長考で☖7一角。四間飛車が先手である『四間飛車を指しこなす本 第1巻』の局面に比べ、☖7四歩☖7三桂の2手が入っておらず、後手からの反撃手段が乏しい。☖7一角なら☗4四香☖同飛☗同角☖同角という反撃がある。

しかし☖7一角に、米長前名人は☗9五歩だった。これは香を犠牲に歩を入手してすぐ☗4五歩が狙いかと思ったが、歩を入手後単に☗4四香だった。確かに単に☗4五歩は桂と香の利きに打つので筋が悪い。☗4四香に☖同飛とするとどういう変化になるのかは分からなかった。しかし本譜の☖1二飛寄は辛抱した印象で、藤井五段が苦戦を意識していると思った。☗9五歩が鋭い手だった。

もし☖4一飛寄も☖7一角も悪いのであれば、振り飛車の手が進んでいないこの形には有力な仕掛けということになろうだろうか。

☖1一飛☖1二飛の形はつらいが、この飛車2枚に美濃囲いの守りを任せ、藤井五段は入玉を目指した。

藤井将棋には珍しい進行だが、なりふり構っていられない。ただ、米長前名人は的確に入玉を阻止してくる。91手目☗8八歩が激痛。しばらく8筋9筋には先手の駒がなかったが、ついに☗8七歩という土台ができた。たった1枚の歩だが、この土台を活かし、97手目☗8五銀から詰ましあげた。米長前名人の巧みな将棋だった。

評価値

評価値(Suisho5(20211123)-YaneuraOu-v7.6.3/1手15秒)

ほぼ互角の形勢が続いていたが、☗4七香の局面は後手が悪い訳では無かった。ただ☖1二飛寄からは徐々に先手に振れていっている。☗4四香に☖同飛は、☗9四桂☖9二玉☗8二銀と根元の角を攻める順があるという。☗9五歩の狙いは歩の入手ではなく、☗9四桂を打つことだった。また、☗4七香には☖4三歩といういかにも指しにくい手も示されており、この将棋はなんとなく後手が指しにくい局面になっている印象を受ける。

参考文献

  1. 藤井猛著『藤井猛全局集 竜王獲得まで』(日本将棋連盟発行/マイナビ出版販売)

棋戦情報

第36期王位戦予選(主催:新聞三社連合、日本将棋連盟)