感想
泉六段との対戦。三度目の登場で、過去藤井九段の2勝。
過去相振り飛車、四間飛車対居飛車穴熊ときて本局は四間飛車対玉頭位取りになった。泉六段も芸が広い。
玉頭位取りに対し☖8四歩が面白い。
普通☗8五歩を与えて損なように思えるが、☖8三銀と上がり☗8四歩☖同銀☗同銀☖8三歩と進行し銀交換になった。そして再び☗7六銀☖8三銀と打ち合った後☖7二飛と袖飛車に振り直したあたり、とにかく位取りの要である☗7六銀を絶対に安定させまいという強い意志を感じた。
64手目☖6五銀と強手を放ち、形勢はともかくとにかく後手が位取りに噛みついている。位取りは玉形に不安があるため有効な手段に感じる。一方駒得となった泉六段ももらった銀を自陣の補強に使い、さらに☗7九歩というもっと後の時代の感覚の手で自玉を固め、負けっぱなしではいられないというような気合いを感じる。
☖5八歩と垂らし泉六段が動く。藤井四段は手に乗って玉頭に逆に位を張り、☗6六金と上ずらせた。藤井四段が上手く対応したように見える。しかし☗6五歩があるためゆっくりできない。100手目は何を指すか注目だった。逆に☖6五歩と先手を取るのは☗4三角等の手段があり上手くなさそう。☗6五歩は打たせた上で手を考えるところか。藤井四段の指し手はじっと☖5九歩成だった。と金の遅早。これが厳しい手か。☖5八歩の顔も立てた。ただ、藤井四段が上手く対応したように見えたが、☗6五歩~☗5五角が入ると難しい局面に見えてきた。先手玉が深い。
藤井四段は7九の地点を攻めに行ったが☗9八玉の早逃げが上手い。深さを活かしている。ただその形に対して取れる銀を取らずに☖8六桂がまた上手い。
お互いに秘術を尽くし面白い終盤戦だ。そして133手目☗9七玉の玉立ちは決め手の玉捌きだと思った。
泉六段の玉は狭そうなところでも生命力があった。以下藤井四段も粘り、迫ったが、ほんの僅かに足りなかった。泉六段勝ちであるがギリギリだった。
見応えのある好局だったと思う。
評価値
シーソーゲームになっていた。序盤~中盤はやや先手に膨らんでいるが実戦的に難局だと思う。泉六段が動いたところからやや後手に振れ始め、藤井四段が上手く対応したという感覚は間違って無さそうだった。その後急激に後手に傾いてるのは、感動した☖8六桂に代わり☖8九角があるからと言う。難しい。ただその辺りから再びまた先手に流れが傾いたようだ。そういう意味で☖8六桂が勝負の分かれ目だったかもしれない。良い手だと思ったのだが。
参考文献
- 藤井猛著『藤井猛全局集 竜王獲得まで』(日本将棋連盟発行/マイナビ出版販売)
棋戦情報
第61期棋聖戦一次予選(主催:産経新聞社、日本将棋連盟)