1995/8/3 中村修八段—藤井猛六段(棋聖戦)

感想

IBM杯決勝からわずか1か月、再び中村修八段と戦う。対戦成績は1勝1敗。

本局は自戦解説掲載局。

戦型は藤井六段の四間飛車。中村八段は居飛車だが、どの形にするか。16手目☖6四歩は早い印象だが、中村八段の持久戦を警戒しつつ、対天守閣美濃のために☖8二玉を決めない意味がある。中村八段は☗3六歩と急戦を匂わせ、そして21手目☗5五角と出た。明らかに☖6四歩に反応している。対して藤井六段は☖6三銀と対応する。☖6三金とした場合の変化は自戦解説に書かれている。続いて中村八段は☗3五歩☖同歩☗4六銀!今でいう☗5五角急戦が現れた。そして☖4五歩!

今では当たり前の手だが、この手はこの将棋が第1号局。新手だ。ここから☗3三角成☖同桂☗3五銀☖3四歩☗2四歩☖同歩☗3四銀☖4六歩と進む。☖3四歩と当たりをつけながら強く呼び込むことで、居飛車にこの手順に進むようなレールを敷いている印象を受ける。

この手順は現代の藤井システム対右銀急戦の変化に組み込まれている。驚くべきは、これが当時の藤井六段の研究手順と言うことだ。藤井システム登場以降の形では☗9六歩と☖6二玉の交換は入っていないが、1995年にして☗5五角急戦への研究が行われており、そしてそれが現代にも現れている。これは藤井六段の研究の質が高いことを示している。

38手目☖4六同飛のところでは、一度☖4四飛と途中下車する方が良いと書かれている。☖4四飛の途中下車は第53期王位戦七番勝負第5局の☗羽生善治王位-☖藤井猛九段で現れたが(☖6二玉型)、羽生王位に☗1六角という意表の手が出て藤井九段が負けた。既に四間飛車側に改良手が出ているのか、☖7一玉型での話なのか。この辺りの詳細をもっと知りたい。

42手目☖2一歩は☗3二竜とボロっと銀を取らせる順で驚くが、☖1四角の狙い。単に☖1四角では☗3六歩の中合いが手強い。48手目☖5八同竜となれば振り飛車大成功のようにも見えるが、斜めに利く駒がないので案外難しい。50手目☖5七金と打って、☗3六角に53分も考えて☖4九龍~☖3九竜はとても予定だったとは思えず、後手の変調を感じさせる。☗3六角は後手陣にも刺さっている。自戦解説を読むと、意外にも自然な☖5七金が良くなかったようで、一度☖4一歩の中合いが良かったようだ。☗同竜ならば☖2九竜が生じる。

そして59手目、中村八段に☗5四銀!の妙手が出た。藤井六段はこれを見落としていたようで、63手目☗6一竜まで行くと通常受けが難しい形。並べていても絶望的に見えた。

そこで☖6七金は「自棄のやん八」という手だが、勝負をするならこういう手だ。

中村八段は残り7分から4分も割いて☗8八玉。中村八段も驚いたに違いない。そしてこれが疑問手だったようで、後に☖6六角が生じた。藤井六段の勝負手が通ったのだ。

そして72手目☖9二玉と振り飛車の奥義が出た。

この早逃げで駒を蓄え、最後は☖9九角成から即詰みに討ち取った。IBM杯でのリベンジを果たしたとも言える。

この将棋は対右銀急戦の新構想が発表され、後の定跡の下地となった意義のある将棋だ。中盤以降は研究将棋から離れ、人間らしい見落とし、妙手、そして敗勢からの勝負手と見どころの多い将棋でもあった。

評価値

評価値(YaneuraOu(tournament128-cl4) NNUE 20240528/tanuki-wcsc34/1手15秒)

序盤の新構想が通用するかという研究将棋を離れ、中盤以降はドラマティックな曲線を描く。将棋を並べて面白いところ。

参考文献

  1. 藤井猛著『藤井猛全局集 竜王獲得まで』(日本将棋連盟発行/マイナビ出版販売)

棋戦情報

第67期棋聖戦二次予選(主催:産経新聞社、日本将棋連盟)