1992/3/6 郷田真隆四段—藤井猛四段(竜王戦)

感想

郷田真隆四段との対戦。私が将棋を見始めた頃、羽生、森内、佐藤(康)、郷田という面々が四強と言われていた。そのため郷田将棋を目にする機会が多かったが、「格調高い」と評されるように、素人ながらいつも美しさを感じる。好きな棋士の一人。

本局は自戦解説編掲載局。将棋に関する解説も充実しているが、四段時代の郷田四段との距離も感じさせる内容になっている。

戦型は藤井四段の四間飛車。郷田四段は☗5七銀左急戦~端角作戦を採用した。12月の藤原直哉四段—藤井猛四段(順位戦)と同一の進行だ。解説によると当時はむしろ居飛車穴熊が減り、急戦が重要なテーマになっていたようだ。そして急戦に対して☖5四歩型が定番だったらしい。時代背景が分かる解説がありがたい。

47手目、藤原四段戦では☗4六角だったが、☗5七銀から歩を取りに行ったのが本譜。2筋を逆に凹ませる進行は一瞬非常に気持ちが良いが、歩切れでもありどんどん行ける感じではない。お互い模様の良さを細かく積み上げていっている印象でじりじりとしている。

59手目☗4八金は飛車を回る準備だと思うが、その浮き駒を見てか藤井四段が動いていった。歩を次々に突き捨て☖5三角。☖7五角が☗4八金を狙っている。そこで金を先逃げしたが、今度は☖3五角と逆側の歩を取って☗6八金を狙う。途中下車したような角の動きで、藤井四段が非常に細かく動いている。しかし郷田四段も☗4四歩と最強の応手で切り返した。この辺りの攻防は見応えがあった。

79手目の☗5三角は後手視点で嫌な手に見えたが、自戦解説編によるともっと良い手があったようで将棋の難しさを感じさせる。確かに追われながら☖8四飛と転回できたのは飛車を浮いてからの一連の手順が最高に活きた気はする。

ここからの藤井四段の勝負の仕方は今の藤井将棋にも通じるような凄みを感じた。藤井四段は☖3六歩に勝負を賭けた。それを実現させるために☖8五角という、狭くピンポイントで、しかし有効な角打ちを放った。確かに自玉は飛車角だけではまだ大丈夫か。それでも☖3六歩は先手玉から遠い攻めで、勇気のいる決断だったに違いない。中盤の大捌きも見どころであったが、この☖3六歩で勝負しに行ったところが本局のハイライトだと思う。

郷田四段は手駒を加えるべく駒をぶつけ、飛車角に銀が加わった。その銀で☗7四銀と攻防の手で迫る。どちらが勝っているか分からなかったが、この銀を取り返した手が先手玉への詰めろになっており、一気に終わったように感じた。3筋のと金も詰みに役立っているのが見事だ。解説によると☖8八金に☗同玉と取っていればまだ難しかったらしい。

後々も好勝負を重ねる郷田四段との対戦、四段時代から面白い将棋を指していたことが分かる。郷田四段はこの半年後には早くも王位を獲得する。

評価値

評価値(Suisho5(20211123)-YaneuraOu-v7.6.3/1手15秒)

評価値的にもずっと難しい勝負で進行しているのが素晴らしい。最後急速に終わっていくのも印象通りだった。ただ、藤井四段が☖8五角と☖3六歩の勝負を賭けた手は、どちらにもあっという間に転び得る展開だった。藤井四段が勝負を通し切ったのがアツい。

参考文献

  1. 藤井猛著『藤井猛全局集 竜王獲得まで』(日本将棋連盟発行/マイナビ出版販売)
    ※自戦解説編第3局掲載局
  2. 小倉久史・杉本昌隆・藤井猛『振り飛車党宣言!①新感覚の四間飛車』(毎日コミュニケーションズ)

棋戦情報

第5期竜王戦ランキング戦6組(主催:読売新聞社、日本将棋連盟)