1995/12/11 村山聖八段—藤井猛六段(王位戦)

感想

勝てば王位リーグ入りという一局を村山聖八段と戦う。村山八段は藤井六段の1つ年上であるが、この年A級に上がった。この将棋が初対局となる。

本局は自戦解説掲載局であり、『将棋世界』2004年4月号の「新手が生まれるとき」というコーナーで「藤井システム誕生前夜の一局」として紹介もされている。

戦型は藤井六段の四間飛車だが、ここ数局の流れと同様、藤井六段は来るべき井上慶太六段戦に照準を当てており、本局でも戦型選択に悩んでいた。その結果、村山八段の居飛車穴熊に☖6二飛戦法で挑むことになった。しかしこの形は本来藤井六段の選択肢に入らないと言う。『藤井猛全局集 竜王獲得まで』には藤井六段当時の生々しい苦悩の様子が書かれている。

28手目は『四間飛車を指しこなす本 第2巻』で解説されている形とほぼ同じだが、先後逆であるため☖9四歩が入っていない。

30手目☖8五桂は見慣れているようでも☖9四歩も☖4三銀も省略して目いっぱいでギリギリの仕掛け。ここでこの桂馬を跳ねるためにここまでの駒組みがある。しかしそれを承知の上で29手目☗9八香と指すのところに村山八段の強さや自信を感じさせる。☖8五桂に☗9五角。☖9四歩を省略しているのを咎めているような角出があった。一見嫌なカウンターだが、藤井六段も想定済みのようで☖8四歩といういかにも上手い手を指した。

将来☖6三飛としたときに飛車の可動域が広い。仕掛けからいきなり胸躍る攻防が繰り広げられている。

しかし☖8四歩に対する☗8六歩がさらなる驚きの一手。本譜の順で角が死んでいる。先手も飛車が捌けたが、後手は☖9四歩~☖9五歩という確実な攻めが残り、☖4三角の利きも絶好。藤井六段の力が出そうな局面になっており、藤井ペースと思われた。ただし自戦解説によると藤井六段は少し自信がないとのことだった。

ただ☗1一竜から☗4四香を狙われても、藤井六段はそれを受けずに端に戦力を集中させた。

藤井六段はまだまだ勝ちになる順を狙っている。その具体的な手が64手目☖8五桂。

渾身の一手。飛車角の利きがもの凄く、飛車を取れば詰み、桂馬を取っても攻めが続く。この手には力がこもっていたに違いない。

ところが、村山八段は見事な鬼手を用意していた。☗8二角。

なんと鮮やかな切り返しだろうか。村山八段の読みが藤井六段の読みを上回った。

王手で飛車を取られ、渾身の☖8五桂は悠々と取られてしまった。

本譜の藤井六段の攻めは相当突っ張っており、それを咎められたら通常一気に負けになるところだが、この後角2枚を捨ててまで喰らいついていく。

先手玉も意外と狭く、鬼気迫る追い込みだった。

しかし99手目☗5六角が後手の希望を砕く攻防手。

きれいに一手余して後手玉を即詰みに討ち取った。

この時期藤井六段は居玉四間飛車(対居飛車穴熊藤井システム)研究中ではあったが、☖6二飛戦法も想定した局面になれば優秀な戦法であると考えていたようで、それを上回った村山八段の強さが際立つ一局となった。しかしこの敗戦が居玉四間飛車(対居飛車穴熊藤井システム)完成への想いをより強くする。井上慶太戦まであと11日。

評価値

評価値(YaneuraOu(tournament128-cl4) NNUE 20240528/tanuki-wcsc34/1手15秒)

参考文献

  1. 藤井猛著『藤井猛全局集 竜王獲得まで』(日本将棋連盟発行/マイナビ出版販売)
  2. 藤井猛著『四間飛車を指しこなす本 第2巻』(河出書房新社)
  3. 『将棋世界』2004年4月号(日本将棋連盟)

棋戦情報

第37期王位戦予選(主催:新聞三社連合、日本将棋連盟)