1992/6/16 藤井猛四段—長沼洋五段(順位戦)

感想

藤井猛四段の2期目の順位戦が始まる。初戦は長沼洋五段との一戦。

藤井四段は先手で四間飛車。対して長沼五段はなかなか作戦を明らかにしなかったが、ようやく30手目に☖6四銀と出て右銀急戦を見せた。☗4六歩と突かせたかったということか。長沼五段はさらに☖5五歩も絡め、複雑な対抗形となった。

藤井四段の対応はシンプルで参考になる。50手目の局面は桂損だが☖7三歩成でその程度の駒損はすぐ取り返せそうだ。なにより持ち歩の差も大きい。

ところが、52手目☖5七歩の手裏剣に堂々と☗同金と取った。シンプルからかけ離れた手が突然現れた。手そのものはシンプルだが、☖8六飛~☖9三角が見えている。長沼五段が☖5七歩に41分掛け、藤井四段は☗同金にわずか4分しか掛けていないところを見ると、当然大丈夫と読んだ上での着手ではあるが、金を1枚ボロっと取られる順に入る。さらに☖5七角成の瞬間、☗6七銀も浮くことになる。本当に大丈夫なのか。

実戦もその通りに進み、☗5八銀と玉を固めつつ逆先で銀取りを逃し、62手目に手番を得た。しかし瞬間的に金桂損だ。☖8三桂はすぐに取り返せそうだし、桂香も拾えそうではあるが、後手陣は2枚飛車に強そうな構えだ。この手番でどうやるか。

藤井四段の出した答えは☗1五歩だった。取れる桂馬も取らず、ここで端。左辺からの攻略が難しければその裏の端から攻めるのは非常に合理的だ。この順を選んだのは飛車を手持ちにして端攻めを見ていたのだ。香車を吊り上げ☗1二飛~☗1四飛成を実現し、後手に得した金を☖2二金に打たせ、藤井四段が優位を築いた。この☗1五歩は『振り飛車党宣言!①新感覚の四間飛車』に次の一手として出題され、「端の勝負手」と示されている。後手は☖1五同歩ではなく☖7九馬~☖4六馬と頑張るべきだったようだ。

52手目☖5七歩からの攻防で藤井四段が優位を築いたのはちょっと信じられないものを見た感覚だ。☖5七歩に☗同金として指せると見た藤井四段の読みの深さに感動した。

以降は☖8三の桂馬は結局取らず、と金は6三の方向に活用した。まだまだ豊富にある歩を駆使して金銀を吊り上げ、後手の囲いを完全に無効化し、筋良く、歩1枚も余ることなく綺麗に寄せた。

最初から最後まで素晴らしい藤井将棋だった。順位戦、最高のスタートを切った。

評価値

評価値(Suisho5(20211123)-YaneuraOu-v7.6.3/1手15秒)

見事な右肩上がり。つまり、当然ながら53手目☗5七同金は成立しているということだ。素晴らしい。

参考文献

  1. 藤井猛著『藤井猛全局集 竜王獲得まで』(日本将棋連盟発行/マイナビ出版販売)
  2. 小倉久史・杉本昌隆・藤井猛『振り飛車党宣言!①新感覚の四間飛車』(毎日コミュニケーションズ)

棋戦情報

第51期順位戦C級2組(主催:毎日新聞社、日本将棋連盟)