1992/8/20 阿部隆五段—藤井猛四段(新人王戦) ※指し直し局

感想

千日手指し直し局。

戦型は相振り飛車になった。阿部五段は純粋居飛車党のイメージがあったので3手目☗6六歩から振り飛車にしたのには驚いた。向かい飛車対三間飛車、囲いは相金無双。伝統的な形となった。こういう展開には安心感を覚えるので、自分の根っこの感覚は古いままであることが分かる。

☖9三銀で飛車を圧迫したときに、☗7四歩☖同歩☗5五角☖8二銀☗8四歩から7筋の歩交換する筋は参考になった。ほぼ互角だと思うが、☖4二銀の形が堅いのか立ち遅れているかの判断が難しい。

68手目☖4六歩も参考になった。☗同飛は☖5五角。金無双最大の弱点である玉のこびんがあく。しかし70手目☖9五歩は難しい。☗同歩なら☖9二歩☗同香として、☖5四角(☖6五角が王手香取り)が狙いだろうか。将来☖1六歩~☖1八歩~☖2六歩の狙いもつけることができるが、今は一歩足りない。阿部五段はこの端歩を取らせて逆に先手から☗5六角~☗9二歩~☗8四歩を狙う筋で対抗した。☗5六角は弱点も若干補強している。

ここからどんどん激しくなっていった。藤井四段は角を見捨てて桂馬を入手。しかしその代償に玉形はかなり不安定になった。☖5四桂は期待の一手だが、☗2六歩~☗5五角が見事な対応で余されている感じがする。形勢は阿部五段が良さそうだが、藤井四段はさらに駒損し、強引に手番を握って☖2五歩~☖2六歩と逃げ道を塞いだ。しかし☗1五竜は冷静だった。藤井四段は忙しい。☗2六竜とされる前に☖5五角を無理やり追い、なんとか☖4六桂(1手詰)を実現させようとするが、☗6九歩が絶妙だった。先手は☖2六歩を除去しなくても、☖4六桂さえ防げば問題ない。☖4六桂が怖いのは☖2六歩と☖7九竜の利き両方があってこそ。どこかで☖4五歩が無いかと思ったが、今度は☖2六の歩が除去されてしまう。藤井四段はなんとか嫌みをついて阿部五段を楽に指せない指し回しだったが、阿部五段は冷静で、どう攻めてもどちらかが防がれてしまう形にされてしまった。

持ち時間4時間の将棋ながら終局は21時9分。熱戦だった。本局は阿部五段の巧みな受けが印象に残った将棋だった。

評価値

評価値(Suisho5(20211123)-YaneuraOu-v7.6.3/1手15秒)

☗1五竜と引いた辺りはむしろ後手が良かった。冷静な手に見えたが、粘りの一手だったかもしれないし、☖7三銀~☖6四銀打☗1五竜を上回る指し手だったかもしれない。棋譜を並べているときは☗2七玉と上がられると相当寄らないため先手が良さそうに見えたが、変化手順を見ると☗2七玉の後☖2五歩と押さえることができるのでそれほど悪くはないという感じであった。

参考文献

  1. 藤井猛著『藤井猛全局集 竜王獲得まで』(日本将棋連盟発行/マイナビ出版販売)

棋戦情報

第23期新人王戦本戦(主催:赤旗、日本将棋連盟)