感想
佐藤秀司五段との戦い。過去の対戦成績は藤井六段の1勝2敗。
前局は佐藤五段の5筋位取り。本局も佐藤五段は☖5三銀~☖3二銀と厚みのある形を目指しそうな趣向を示してきた。四間飛車に構えた藤井六段だったが、それを見て三間飛車に振り直した。佐藤五段が☖8四歩を省略して玉頭方面に手を掛けていたので☖8五歩に☗7六飛が間に合い、三間飛車への振り直しがスムースだった印象もある。さらに☗6五歩も伸ばして飛車が圧迫される心配もなくなった。お互いに左辺で伸び伸びとした陣形を作った。
この時に先手の陣形をどうするか。後手の構えは玉頭~端攻めも見越しているので、☗1六歩と突き返すとかえって攻めが早くなってしまう恐れがある。また穴熊も端に集中砲火される可能性があり、位取りの圧力からは遠ざかっているが得になっているかどうかは分からない。藤井六段は☗2八玉で穴熊も美濃も明らかにしないまま、☖3五歩を見て☗4六歩と位に反発した。☖3五角とかわせないのでこの瞬間は☖4六同歩と取れない。後手も☖3四銀~☖4五銀と手に乗って駒を前に進めたが、後手は歩を前線に出して銀は支えとして使う厚みを目指したいはずで、銀が五段目に出てしまうのは嬉しい訳ではなさそうだ。そうして戦いを起こして☖3八銀と美濃に組んだ。
後手は☖3四銀と立て直したが陣形は中途半端。☗5五歩~☗4五歩と、一歩を犠牲にしてまで銀を再度前線に呼び込み、☗4六銀とぶつけていった。後手の左辺の主張をひとつ奪い、藤井六段がペースを握った。
佐藤五段は駒を引くことになり悔しかったと思うが、陣形をコンパクトにまとめ、☖8六歩を入れたり☖2五歩と玉頭にプレッシャーを与えたりしながら反撃のチャンスをうかがう。藤井六段は☗5五歩と飛車の可動域をひろげ、☖2六歩には☗同飛と取れるようにしたのが振り飛車らしい。ただ飛車が動くと角が動けない(☖7七角成で桂馬を取られる)筋が出てくる。実際98手目☖8五歩で角を逃げにくい状況になったが、☗7四歩~☗7三歩成~☗6五桂で角金交換できれいに捌いた。
最終盤は少ない攻め駒を盤上の駒を使って寄せに行った。細そうな攻めなのに流れるように挟撃形を作り、佐藤五段投了。序盤でペースを握った藤井六段の快勝だった。
評価値

印象に反し、ほぼ互角の状態で推移していた。途中先手に少し振れているので藤井六段がペースを握ったと見て間違いなさそうだが、その後の佐藤五段の頑張りが功を奏していた。角金交換のところはむしろ少し後手に振れていた。119手目☗7四歩に☖8四銀!とかわせばまだ難解だったと示されている。☖6二銀と飛車の横利きが止まって本譜の寄せが炸裂した。
参考文献
- 藤井猛著『藤井猛全局集 竜王獲得まで』(日本将棋連盟発行/マイナビ出版販売)
棋戦情報
第14回全日本プロトーナメント(主催:朝日新聞社)