感想
順位戦第3回戦、伊藤能四段との対局。順位戦はここまで藤井四段、伊藤四段とも1勝1敗。
伊藤四段とは2局目。前局は藤井四段の四間飛車に伊藤四段の鷺宮定跡だったが、本局は伊藤四段がなかなか態度を明らかにしない駒組みを見せた。藤井四段は三間飛車に構えたが、伊藤四段は結局居飛車に。玉頭に模様を張り、☖4四角から端攻めも見ている形だ。戦型分類は「相振り飛車模様対抗形」となっている。
37手目☗4六歩と1歩交換してから☗9七角の純正石田流に組んだのが抜け目ないところ。
さらに、☗9五歩と伸ばさずに玉を固めたのもなるほどなと思った。3筋や4筋の位に対抗し得る厚みを作った。飛車の可動域は狭いままだが、それでもなんとか手を作っていける見通しが立っていると思った。
そして57手目☗7四歩。石田流がこの手を指すときは捌きの目処が立っていることが多く、対天守閣美濃の☗2五歩と同様の高揚感がある。実際、角交換後☗4四歩という小粋な手と☗6一角の組み合わせが厳しい。本局は全体的に藤井四段が狙っていた筋が盤上に現れたように感じた。☗4四歩は序盤の歩交換がなければ実現していない手で、序盤のやり取りが中盤以降に利いてくると美しさを感じる。
それでも藤井四段はここまでで既に5時間使っている。決して簡単に実現できている訳では無い。
伊藤四段は☗4四歩を除去するため自陣角を放つが、藤井四段は☗8六歩と攻めを催促。飛車を捌かせるわけにはいかないので飛車を殺しに来たが、刺し違えて手にした銀で☗6三銀の鋭手が決まった。
藤井四段の思う通りに将棋が進行している。
その後も面白いように攻めが刺さっていき、そのまま攻め倒した。藤井四段の快勝譜だった。
評価値
藤井四段の快勝譜と言えると思うが、89手目☗3九金は危険だったというグラフになっている。読み筋を見ても難解な変化が続いていたが、☖5八飛~☖5七飛成と☖2五歩からの粘りの組み合わせが先手の玉頭に利いてくるのが大きそうだった。本譜は単に☖2五歩だったのでリスクなく銀を払うことができたということだと思う。あれだけ気持ち良く進めていても危険が潜んでいるというのは恐ろしい。
参考文献
- 藤井猛著『藤井猛全局集 竜王獲得まで』(日本将棋連盟発行/マイナビ出版販売)
棋戦情報
第52期順位戦C級2組(主催:毎日新聞社、日本将棋連盟)