1991/11/12 飯田弘之五段—藤井猛四段(順位戦)

感想

飯田五段とは藤井三段時代に一度対戦したが、四段昇段後は初めてとなる。前局では飯田五段が振り飛車、藤井三段が天守閣美濃で、形勢が入れ替わる熱戦を藤井三段が制した。

ここまで飯田五段は3勝2敗、藤井四段は4勝1敗である。

本局は飯田五段が初手に☗2六歩と突き、藤井四段が四間飛車に構えた。飯田五段が☗9八香と穴熊を明示すると、藤井四段は☖4五歩!と角交換を挑んだ。☖3一銀と保留していることや、☗2五歩☖3三銀の交換が入っていないことを活かして積極的に動いていった。穴熊が完成する前に何とかしようという試みは藤井システム以前からあったことが分かる。

角を手持ちにして穴熊は固めづらく、振り飛車の主張が通ったように見える。しかし39手目☗4六銀☖4五歩☗5七銀と進んでみると、☖4五歩を負担にされてしまいそうだ。☗5六銀の瞬間に☖7五歩が狙いの筋だが、飯田五段も当然分かっていて、☗2四歩~☗6六角が上手い切り返しだった。

ここから藤井四段の長考が続き、苦悩がうかがえる。形勢もいつの間にか先手が良く見える。玉頭に味を付けた後の☖8三角は長考しただけあってひねったながらも受けづらそうな角に見えた。☖5五歩で今度は飯田五段が大長考に沈んだ。

飯田五段の出した解は☗6八金寄~☗7八金寄という、金の早逃げとも言うべき守りの手だった。序盤は固めにくいはずだった穴熊をここで固められ、後手はそれよりも厳しい攻め手がないため、さすが好着想だったと思う。

その後飯田五段は一気に寄せに来たが、☖6五角(94手目)はカウンターが決まったのではと思った。98手目の局面、持ち駒飛車桂だけでは藤井玉は寄らず、逆転して後手が良くなっていないか。しかし藤井四段は残り12分しかない。具体的に藤井四段の何が悪いかは全然分からないが、☗7三飛(107手目)を喰らって再度先手が良くなったように見えた。

飯田五段との将棋は形勢が入れ替わって面白いが、最後が負けだとやはり残念に思うところはある。これで藤井四段は4勝2敗に。順位戦の1敗は重い。

評価値

評価値(Suisho5(20211123)-YaneuraOu-v7.6.3/1手15秒)

やはり形勢は揺れ動いていた。☖8三角(64手目)のところはギリギリバランスを保っている。むしろ☗5四歩(65手目)は若干後手有望なのは意外だった。☖2五飛(78手目)から先手に振れている。並べていて、この辺りは先手が良く、☖2五飛は後手陣に攻めかかるための勝負手だと思っていたので、評価値を見てかなり驚いた。一時期かなり先手に振れたが☖6五角(94手目)で再び後手に振れた。この辺りの逆転のにおいは感じ取れていたのは嬉しい。ただ、☗7三飛(107手目)のところもまだ後手が良いと出ているが、そこで☖5一玉が最善と言う。残り少ない時間では非常に難易度の高い終盤だったと思う。

参考文献

  1. 藤井猛著『藤井猛全局集 竜王獲得まで』(日本将棋連盟発行/マイナビ出版販売)

棋戦情報

第50期順位戦C級2組(主催:毎日新聞社、日本将棋連盟)