1992/9/17 藤井猛四段—神崎健二五段(銀河戦)

感想

神崎健二五段との対局。

本局は、非公式戦ながら、対穴熊藤井システムの歴史を語る上で重要な一局。対穴熊藤井システムの登場は1995年12月だが、その原型となる仕掛けが本局で指されている。杉本昌隆三段が披露した攻撃的布陣は先崎学五段戦(1992/2/7・棋王戦)でも指されているが、本局ではついに「香車を上がった瞬間に桂馬を跳ねる」仕掛けが敢行された。

歴史的な一局だが、銀河戦のため、盤面図や符号を使用できないのが残念だ。

本局は自戦解説編掲載局であり、『ぼくはこうして強くなった』や自戦解説を読めば本局で仕掛けが現れた経緯が良く分かる。興味深かったのは、本局の仕掛けが多くの制約の下で成り立っていること、あるいは既にどのような制約があるか分かっていたことで、この形の研究に多くの時間を費やしていることが想像される。もしこの仕掛けが成立すれば、振り飛車にとって強力な武器になったことは間違いない。

この将棋は藤井四段の仕掛けが成功したが、途中の攻防は後の藤井システムでもあり得る変化で、やはりプロの対応力と言うのは素晴らしいものがある。しかし藤井四段の研究はそれを上回っており、この形の捌き方が分かっていた。振り飛車にとっては理想的な展開で藤井四段が優勢になった。

神崎五段の飛車を捨てて歩を拾う強烈な勝負手もあったが、それらの粘りを振り切って制勝した。

一見大成功の将棋だが、自戦解説編には「この作戦は、本局以降、封印することになる。」とある。その理由は是非『藤井猛全局集 竜王獲得まで』でご覧いただきたいが、この理由に藤井四段の序盤に対する考え方、理想がよく表れていると思った。

評価値

評価値(Suisho5(20211123)-YaneuraOu-v7.6.3/1手15秒)

「香車を上がった瞬間に桂馬を跳ねる」仕掛けから角を逃げた辺りで先手に振れ始め、振り飛車が捌きに出たところは完全に先手が良くなっている。仕掛けは成功していると言える。仕掛けが成功する条件が分かっていたこと、実戦で成功させたこと、そしてせっかく成功したのに封印したことも含めて、藤井四段の良さがふんだんに詰まっている。

参考文献

  1. 藤井猛著『藤井猛全局集 竜王獲得まで』(日本将棋連盟発行/マイナビ出版販売)
  2. 藤井猛『ぼくはこうして強くなった』(『将棋世界』2014年9~11月号・日本将棋連盟発行/マイナビ出版販売)※『藤井猛全局集 竜王獲得まで』にも掲載されている

棋戦情報

第2期銀河戦Cブロック(主催:サテライトカルチャージャパン)