1995/7/1 藤井猛六段—中村修八段(IBM杯)

感想

IBM杯決勝。順位戦昇級者同士で争うIBM杯は第7回で終了したため、本局が最終戦。非公式戦ながら大きな一番を戦う。対局場所は池袋のサンシャインシティで、公開対局だった。

対戦相手は中村修八段。過去一度だけ対局しており、藤井勝ち。中村八段の居飛車穴熊に対し、☖6五歩から積極的に動いていく将棋だった。

本局も中村八段は居飛車穴熊を目指す。藤井六段は今回は一段玉のまま☗4六歩~☗3六歩~☗3七桂として☖4四歩と突かせて銀冠に組んだ。じっくりした戦いになった。

45手目☗6九飛は藤井六段の形。そして左銀を☗4八銀まで持っていき、さらに☗1八香と上がり一つの理想形を築いた。堅いし、☗1九飛からの攻めも見込める。

居飛車は固いが5三の銀が浮いているのが気になる。そこで59手目☗8八角は☗9七角を狙った一手で油断ならない。ここで中村八段が動く。8筋、9筋を突き捨てて☖4八角成~☖8六飛。角銀交換の駒損ながら、穴熊の固さを頼りにして飛車を無理やり捌いてきた。ただ9筋の突き捨ては細かいところで、☖9七歩を入れたことで☖8六飛の瞬間の☗9七角のカウンターを消している。しかし☖8六飛に☗7七角で、飛車は成られるが☗6九飛の効果で8九の桂馬を取られることが無い。さらには☗9五角と香車も取ることができる。藤井六段が良さそうに見える。やはり藤井六段の銀冠は絶品だ。ただ相手は穴熊、まだまだ先は長い。

追われるように☗1九飛と逃げて、端攻めの攻撃態勢も整った。後手からの攻めは竜桂と持ち駒の銀で戦力不足だが、☖4五歩と突き出して4枚目の攻め駒を作ろうとしている。これが意外と厄介で、攻めを切らせたいがそうもいかない。藤井六段は飛桂香香とという戦力を端に集めて総攻撃を開始した。

中村八段も☖2四銀打と頑強に受ける。まずは銀桂交換を果たし、後手の戦力はますます低減した。そして☗6六角が攻防に利いた手。藤井六段が勝勢になっているようにも見えるが、☖4四桂の受けに☗2五銀とさらに力を溜めた。ここは☗4五歩としたらどうなっていたのだろうか。突き捨てたばかりで変だが、☖5四歩☗6六角☖6七龍で角の利きを維持するのは難しそうではある。となると結局☖5四歩には☗4六角と引くのが良さそうで、本譜に合流しそうだ。本譜☗2五銀に☖2二金上と味良く固められ、まだまだ簡単には攻略できそうにない。

☗4六角と6六に打った駒を活用し、さらに端に駒を集めることができた。ところが98手目☖2四歩の催促が凄い。これだけ端に戦力が集まっているのに攻めをさらに呼び込んだ。藤井六段は☗1四銀から精算しに行くが、☖2四歩の効果で角が端に利かない。部分的には厳しい攻めのはずだが、穴熊が一路遠い。逆に飛車を渡した反動で銀冠の一段目から攻められることになってしまった。藤井玉は1九に追い詰められた。しかし☗4六角が絶妙に受けに利いている。一手でも凌げば☗1三歩成が入る。

143手目☗3八金は竜に当てる強い受けだが、☖1八歩から2九の銀を取られてしまった。☗3八金のところでは☗2八金としてればどうなっていただろうか。最後は受けに打った☖2一香が寄せに働き、☖2七銀打と難しい決め手を放ち、藤井六段が投了した。☗同金左なら☖同銀成☗同金☖2六金☗同金☖同竜☗1八玉☖1七歩☗1九玉☖1八金でぴったり詰む。しかし☖2七銀打に☗2九金と竜の方を取った時、どう詰めろを続けるのか分からなかった。

残念ながら藤井六段は準優勝。婚約中の奥さまも観戦に来られたそうだが、熱戦を堪能されたと思う。

評価値

評価値(YaneuraOu(tournament128-cl4) NNUE 20240528/tanuki-wcsc34/1手15秒)

やはり後手の仕掛けは無理気味で、先手に振れていた。動かざるを得なかったと見れば、藤井六段が上手い序盤を見せたと言うことになる。以降も優勢をキープしていたが、飛車を渡した反動がグラフに現れている。☗3八金のところ☗2八金打でも寄りがあるようだ。ところが最終手☖2七銀打で先手勝ちになっている。やはり☗2九金と取れば寄りがない上に、☗2一飛成~☗2四香という手があり、合い駒が悪く詰みがある。最終手は☖2六銀の棋譜入力ミスだろうか。これであれば先手玉は詰む。もし☖2七銀打で投了が正しいのであれば悲劇的だ。

(2024/7/22 追記)
最終手☖2七銀打ではなく、その直前の☗1七玉が☗1六玉の誤りであった(『藤井猛全局集 竜王獲得まで』の誤植)。☗1六玉に☖2七銀打で詰んでいる。

参考文献

  1. 藤井猛著『藤井猛全局集 竜王獲得まで』(日本将棋連盟発行/マイナビ出版販売)
  2. 平成8年度『将棋年鑑』(日本将棋連盟発行/マイナビ出版販売)

棋戦情報

第7回IBM杯戦準決勝(主催:毎日新聞社、サンデー毎日、日本将棋連盟)