感想
阿部隆六段との対戦。1992年度の新人王戦以来2回目の対戦となる。
戦型は藤井四段の四間飛車に阿部六段の天守閣美濃。
29手目、☗4九金型のまま、☖4四角とできない状態で☗2四歩と仕掛けていったのが阿部六段の工夫と思う。
一段金天守閣美濃との将棋については、石川陽生五段戦(1995/11/15・順位戦)の自戦記が『藤井システム』に掲載されている。
その自戦記では、☖8四歩と突かずに☖6五歩☗7七銀引☖4五歩とし、角交換後の☖5七角や☖4六歩☗同歩☖4七角を狙う手が解説されている。しかし本譜は34手目☖8四歩と突き、そこで☗5八金右が入った。
なんということはない、お互い損のない手のやり取りに見えるが、角を手持ちにしての狙い筋が消えている。それでも☖8四歩の利は小さくないはず。
しかし☖6五歩☗7七銀引☖4五歩に、むしろ先手から☗4六歩と反発してきた。☖5四銀で悪くなさそうなだけに意表を突く。進めてみると飛車角交換になり、☗2三歩成と桂当たりでと金を作られて忙しい。そして、先手に対して思わしい攻めがない。自然な進行にしか見えないが、先手が良く見えてきた。☗4六歩が機敏な一手だったのだろうか。
63手目☗9六桂が痛打。
右桂を取られてしまい、右辺を逆用される形で負けてしまった。
29手目☗2四歩の仕掛けに対しては、おそらく今なら☖8四歩は突かずに単に☖6五歩☗7七銀引☖4五歩と進め、そこで☗5八金右なら☖4四角とかわして定跡形に合流するのだろう。本局は☖8五歩が不発に終わってしまい、対左美濃藤井システムがまだまだ発展途上である時代なのだなと感じた。
評価値
29手目近辺はまったく互角であるが、先手の方が主導権を握っており、先手に振れやすい将棋だったと思う。☖8四歩のタイミングの繊細さを改めて感じた。
参考文献
- 藤井猛著『藤井猛全局集 竜王獲得まで』(日本将棋連盟発行/マイナビ出版販売)
棋戦情報
第64期棋聖戦一次予選(主催:産経新聞社、日本将棋連盟)