感想
前局から1年経ち、同じ若駒戦。初段から三段に飛躍している。おそらくは東京での一人暮らしも落ち着き、周りの将棋情報もスポンジのように吸収し、充実した時期だったのではないかと思う。
本局は藤井三段が覚悟を決めて取り入れた振り飛車穴熊。序盤、相穴熊になると思ったが、小池三段が☗9九玉と潜った状態で☗6六銀~☗5七銀と角道を開けたので、☖7七角成☗同桂で穴熊を阻止した形になった。銀冠に切り替えて上部に手厚くし、将来の☗8四歩に期待する方針に変更したのかもしれない。実際、途中小池三段が☗3五歩~☗3二歩と軽妙な垂れ歩から馬を作った辺りはこれ以上ない厚みで、若干藤井三段が難しい形勢になったのではないかと感じた。
しかし本局の藤井三段は力強かった。狙いの☗8四歩の瞬間に☖7二飛が凄まじい反発。袖飛車と左金の組み合わせで馬金交換に成功した。終盤、8筋はガラガラであったが、穴熊の一路の遠さを活かし、桂馬さえ渡さなければ安全な形であることを見切り、金銀でガジガジと攻めていく。まさしく「がじいさん」だ。それにしても☖8六歩(130手目)からの攻めは目を瞠るものがある。攻めが繋がるかどうかギリギリだったと思うが、☖7五銀(148手目)が鮮烈な妙手だった。最後の☖8五銀~☖7六銀もカッコいい。藤井三段が攻め始めてからの迫力は物凄いものがあった。
評価値
馬を作られたところはそれ程評価値が動いていなかった。馬は作られても良かったのかもしれない。それよりも☖3八歩(78手目)あたりから若干先手に針が振れていっている。大きく先手に振れたのは☖8四歩に☗7二飛のところだが、これは勝負手と思われるので評価値的な善悪は関係ない。棋譜を並べていた時はどこで逆転したか分からなかったが、☗4四飛(127手目)が悪いと言っている。狙いの銀取りでさらに角取りにもなる味良い手だと思ったが、確かに桂馬の価値の方が高いかもしれない。その後は見事に攻めを繋げたことが数字で表されている。
参考文献
- 藤井猛著『藤井猛全局集 竜王獲得まで』(日本将棋連盟発行/マイナビ出版販売)
棋戦情報
第13回若駒戦(主催:大阪新聞)