1996/1/26 真部一男八段—藤井猛六段(順位戦)

感想

真部一男八段戦。両対局者とも順位戦成績は4勝3敗。真部一男八段とはデビュー年に1局対戦しており真部八段勝ち。藤井六段が居飛車穴熊に組んだが真部八段が上手い構想を見せて快勝した。

本局はそれ以来の将棋。真部八段の振り飛車に、今度は相振り飛車を選択した。しかし意表の相三間飛車である。乱戦になりかねない相三間飛車は藤井将棋には珍しい。『藤井猛全局集 竜王獲得まで』でも☗7六歩☖3四歩☗7五歩☖3五歩の出だしはこの一局しか存在しない。

実際の進行は乱戦にならず穏やかな進行。藤井六段は金無双に構え向かい飛車に振り直してやや攻撃的な布陣、真部八段は向かい飛車に振り直されることを前提にやや厚みのある形に構えた。☖2四飛の形の時に☗3六歩として、玉頭の位を奪還しようとしている。

30手目☗2三銀が秀逸。

後手から角道を止めると先手の角道が開いて後手が捌くのに苦労する。角道を開けたまま左銀を前線に繰り出す構想が見事で、角道を開けたまま☗3六歩に☖3四銀を間に合わせた。☗3五歩は☖同銀として2七の地点に殺到できる先手は☗3五歩とできない。先手の3筋の位を奪還するプランは失敗に終わった。藤井六段は位をしっかり確保し、着実に2筋から攻めて行く。

真部八段も遊び駒である☗8九桂を使って攻めて行こうとする。☗7七桂の瞬間は☗8八角と☗7八飛の利きが止まるが、次に☗8五桂と跳ねられれば大きい。なりふり構わず攻め駒を増やしている印象だ。しかし☖6一玉が柔らかいで、☗8五桂に☖8八銀と引けばなんでもない手にした。

さらに☗8五桂と跳ねる前の☖8四飛が大きな揺さぶりになった。銀が前に出て行って受かりはするが、☗8五桂が消えた。6五の地点は☗6五歩としたいため☗6五桂とはしたくない。さらには☖8四歩と追われれば☗9六銀と逃げるしかない。藤井六段の利かしによって☗6七銀が☗9六銀まで追いやられた訳で、☖8四飛は機敏な一着だった。

左辺も右辺も制圧した藤井六段の圧勝。☖2三銀から角道を開けたまま左銀を前線に繰り出す構想や、☖6一玉の柔らかい受け~☖8四飛からの利かし等、短手数ながら藤井六段の良い手をたくさん堪能できた一局だった。

評価値

評価値(YaneuraOu(tournament128-cl4) NNUE 20240528/tanuki-wcsc34/1手15秒)

作戦勝ちから着実にリードを広げて快勝。

参考文献

  1. 藤井猛著『藤井猛全局集 竜王獲得まで』(日本将棋連盟発行/マイナビ出版販売)

棋戦情報

第54期順位戦B級2組(主催:毎日新聞社、日本将棋連盟)