感想
瀬戸博晴五段との一戦。瀬戸五段とはこれが唯一の対局だ。
相振り飛車模様の序盤、先手が飛車を振る前に☖1三角と覗き、飛車振りを牽制する懐かしい手筋が出た。☗6六歩と角道を止める時代ならではの手で、お互いに角道を止めない現代では見かけなくなった。
☖1三角に☗6五歩とするのが急所で、後手は☖2二銀と上がるが、この瞬間は愚形。この後藤井四段は玉を左に囲い、相振り模様対抗形となった。
瀬戸五段が☖3三桂~☖3一銀~☖4二銀と立て直している間に、藤井四段は袖飛車から☗3七銀~☗2六銀~☗1七桂と着々と3筋を逆襲しにいった。40手目は逆襲が成功しており、藤井四段十分な序中盤だと思う。
この後☗6四歩と急所に手が入っているが、☗4五角☖5四角☗同角☖同歩は0手で☖5四歩が入った格好。効果がどれほどのものであったか難しい。少なくとも玉のこびんは開いた。ただ直後の☗2二角~☗1二歩との関連が無いように見えて、少し予定変更があったかもしれない。
香車は取れたが使いどころがない。64手目☖6六桂と打たれたあたりは難しくなっているように見える。しかし玉形はそれでも先手の方が良い。手に乗って深い位置に移動できたとも言えるが、隙も多い。この状態で大駒総交換が行われた。81手目は先手の手番だが☗6八金と引き締めざるを得ず、後手に手番が移った。
84手目☖5九角はピンチの局面に見える。そこで☗7八飛!が根性の受け。この飛車がこの将棋の運命を決める。
瀬戸五段は急所を7七と見極め、☖7四歩から歩の手筋で攻めてくる。しかしここを攻めたことにより、☗7三歩成☖同玉☗8五桂が入り、飛車の前方が開けてきた。だからと言って一気に決まる訳ではなく、藤井四段は☗2九歩~☗3二歩と決死の利かしを入れた。この瞬間が余りにも恐ろしい。
☗3二歩に瀬戸五段の指し手は☖4一金。通った。4筋が壁になったことで、今度こそ☗6四銀が厳しく、いよいよ☗7八飛が寄せに参加することになった。☗7八飛は根性の受けであったが、相手玉を仕留める手にもなった。また中盤で空いた5三の地点も寄せに役立っている。夢のような展開に興奮せざるを得なかった。
111手目、☗7六飛と大海に飛び出したところで投了となった。
評価値
序盤から比較的大きく先手に振れていた。3筋逆襲は成功していた。64手目☖6六桂と打たれたところは差が縮まっていると思ったが、先手がリードをキープしていたようだ。大駒総交換のところで難しくなっているが、7筋の攻めを再逆襲して一気に突き放したということのようだ。☗7八飛を「攻」防手にした藤井四段の指し回しに感動した。
参考文献
- 藤井猛著『藤井猛全局集 竜王獲得まで』(日本将棋連盟発行/マイナビ出版販売)
棋戦情報
第43回NHK杯争奪戦予選(主催:NHK、日本将棋連盟)