1992/9/8 藤井猛四段—米長邦雄九段(全日プロ)

感想

米長邦雄九段との対局。楽しみなカードの一つ。この時米長九段は49歳。名人を奪取する約半年前の対局となる。

このカードの前回の戦型は米長九段の棒銀だった。本局の戦型は藤井四段の四間飛車に米長九段の☖5三銀左急戦。左銀急戦の中でも、☖7三銀上準急戦というやや珍しい形になった。定跡解説は『四間飛車の急所 第2巻』に詳しい。

本局、まず最も印象的だったのは25手目☗6七銀。☗7八銀☗5六歩型ではなく、☗6七銀が先に指された。結局後で同じ形になるかもしれないが、手順が変われば水面下の変化も全く異なる。さり気ないが、☗7八銀☗5六歩型という常識からの脱却が図られようとしている。

本局は先手四間飛車と言うこともあり☗4六歩の一手が入っている。米長九段も☗4六歩を見て急戦の形を選んだ感じもある。☗4六歩とすると、美濃囲いの安全度は上がるが、☗3六歩~☗3七角のような反撃筋がなくなるデメリットがある。どの手も一長一短で、先手四間飛車で「先手番のプラスの一手をどうするか」というのは難しい。

☖7三銀上準急戦は☖6四に銀がいるため、この銀をどかして☖6四歩~☖6五歩とするのはやや時間が掛かる。藤井四段は☗5七金と厚く受ける形にし、さらに☗3六歩~☗4七銀~☗3五歩から袖飛車で反発する形を目指した。これは後手の仕掛けより早い。藤井四段が☗4六歩の一手を活かす構想を見せてくれた。

しかし米長九段の☖4一玉の早逃げが柔軟な一手。☗3五飛と走った時に王手ではないため、そこで☖8六歩☗同歩☖8八歩のような反撃が嫌に見える。一方で先手はその後どうするかがなかなか見えない。しかし袖飛車にしたのに飛車を走れないようではつらい。端攻めから左金で香車を取りに行ったのは本意では無かったと思う。

70手目、銀を取らずに☖5六歩が綺麗な手。ほぼ決め手と思う。米長九段はと金を作り、手堅くまとめた。

藤井四段はどこかで誤算があったか、短手数で負けになってしまった。とにかく☗3五飛と走れないのはつらかった。☖4一玉という柔軟な受けと、爽やかに決める米長九段の上手さが際立った一局だった。

評価値

評価値(Suisho5(20211123)-YaneuraOu-v7.6.3/1手15秒)

印象通り、☗3五飛☗4五歩~☗4六金の辺りからだんだん後手に振れていった。☖4一玉という受けで袖飛車の目標がなくなってしまうのでは、形勢的に難しいとしても、それ以上に以降の方針をどうするのかは難しいと思う。

参考文献

  1. 藤井猛著『藤井猛全局集 竜王獲得まで』(日本将棋連盟発行/マイナビ出版販売)

棋戦情報

第11回全日本プロトーナメント(主催:朝日新聞社)