感想
小倉久史四段との戦い。この2年後に、藤井四段は小倉五段、杉本昌隆四段と『振り飛車党宣言！』という本を作る。1990年代初頭も振り飛車はそれ程評価されていなかったが、若手振り飛車党たちによる熱の入った名著である。
本局は藤井四段の居飛車。藤井四段が穴熊を見せたところで小倉四段が向かい飛車から早い動きを見せた。簡単には穴熊に組ませない意志を感じる。藤井四段は美濃に切り替えたが、小倉四段はさらに☗５六銀から玉頭銀を狙ってきた。それに対する藤井四段の構想が驚きで、悠々と☖７三桂と跳ね☗４五銀を許した。結果、小倉四段は☖３四と☖５四の歩を召し取る戦果を挙げたが、藤井四段も右桂を☖８九まで活用できた。王手飛車を避けるために寄った☖１二玉型が妙に遠く、良い勝負だと思う。端の突き合いが無いことを上手く活かしたと言える。序盤は小倉四段の動きに対する藤井四段の対応が面白かった。
中盤、小倉四段の数の攻めに対して藤井四段が丁寧に受け、小倉四段は攻めあぐねているように見えた。藤井四段と言えばゴツい攻めが思い浮かぶが、本局は図にも掲載された☖８四飛打（58手目）というゴツい受けも出た。藤井玉が余りにも遠い。その後☖８九成桂～☖７九成桂という活用を見せて無理攻めを催促し、蓄えた駒で寄せた。
藤井四段の軽やかな受け、丁寧な受け、攻めながらの受け、ゴツい受け、攻めるための受け、様々な受け方が参考になった一局だった。
評価値
中盤以降は藤井四段がずっと良いと思っていたが、実際は小倉四段に振れていた。先手に振れ始めたのは☖６三香（56手目）だが、代わりに☖９八飛で良いと言われてもあまりハッキリしない。印象的だった☖８四飛打（58手目）のところは先手に600点程度振れているが、後手玉が堅すぎて実戦的には難しいか後手が勝ちやすいのではないかと思ってしまう。成桂を寄せていったところもまだ先手に振れているが、対局者の形勢判断は逆だったのではないかと思う。
参考文献
- 藤井猛著『藤井猛全局集 竜王獲得まで』（日本将棋連盟発行/マイナビ出版販売）
棋戦情報
第25回早指し選手権戦予選（主催：テレビ東京）
