感想
千日手になり藤井五段は先手を得た。また40分ほど時間的にも優位に立った。
指し直し局は佐伯八段が4手目☖7五歩として三間飛車を明示。それを見て藤井五段が居飛車にスイッチした。戦型は相振り模様対抗形。千日手局と指し直し局で対抗形の居飛車振り飛車が入れ替わるのは珍しい。
今度は藤井五段が玉頭位取りを見せる。玉頭位取りを緩和するべく佐伯八段は穴熊に組むが、その間に藤井五段は☗4七金として3筋の歩交換も許さない。先手の金銀が左右に分断、上ずる形で、必然的に大模様を張ることになった。藤井五段のこういった将棋は珍しい印象を受けるが、個人的には好みの将棋でワクワクする。この大模様が後手三間飛車を完全に抑え込めるか、それとも網破れて一方的に負けてしまうか。分かりやすいテーマのある将棋となった。
相手が穴熊に組んでいる間、藤井五段は☗6六角~☗7七桂として端攻めを見せる。堂々とした陣形になった。
61手目、佐伯八段の動きに自然に対応し、2歩を手にしたところで端攻めを敢行。みるみるうちに穴熊が崩れていって気持ちが良いが、攻め切れるかどうか。
78手目☖4二銀は意外な印象。これは☖9三歩なら☗同香成☖同桂☗9四歩☖9二歩☗9三歩成☖同歩☗4三銀☖2四飛☗5四歩☖6二銀☗3三角成という筋を未然に防いだ意味だろうか。☖9三歩と打てないのであれば攻めは成功していると言える。この変化は振り飛車の左桂を使うために59手目☖4五歩と突いた手を逆用している。☖4五歩は自然に見えたが、先手に歩を渡したことや☗3三角成の筋を生じさせていることで反動が大きくなっていた。☖4二銀に45分考えて改めて読みを立て直し、じっと☗9二歩。85手目☗9三角成まで穴熊を崩した上に馬を作り、先手が優勢になった。
93手目☖5四同飛と取れたのを見て、☖3三桂に紐をつけた☖4二銀の効果があらわれているのが分かるが、近づいてきた飛車を狙って☗6四金が決め手。ここで佐伯八段の投了となった。
穴熊に組ませている間に攻めの布陣を敷き、歩の突き捨てを逆用して怒涛の攻めを展開し、そのまま押し切った。佐伯八段は先手陣への効果的な手を一切指すことができなかった。藤井五段の大模様が奏功した痛快な一局だった。
これで順位戦は4連勝。C1上がったばかりであるが好調が続いている。
評価値
端攻めを行った辺りから先手に振れ始め、そこからは右肩上がり。快勝譜。
参考文献
- 藤井猛著『藤井猛全局集 竜王獲得まで』(日本将棋連盟発行/マイナビ出版販売)
棋戦情報
第53期順位戦C級1組(主催:毎日新聞社、日本将棋連盟)