感想
武者野勝巳六段との順位戦。武者野六段とはこれが唯一の対局。武者野六段は藤井猛竜王時代、竜王戦群馬対局やインターネット中継に尽力された印象がある。順位戦成績はここまで藤井四段が5勝1敗、武者野六段は6連勝!成績が良い者同士の対決で、昇級のためにはますます負けられない。
戦型は藤井四段の四間飛車に武者野六段の☖2二玉型左美濃。武者野六段は☖5三銀型ではなく、☖5四歩も突かずに銀を引いて固める指し方。藤井流の早い右桂の活用に対抗している感じがする。藤井四段はそれでも☗3九玉型で玉頭攻めの布陣を展開した。
30手目☖4四角は☗2六歩に反応した手だが微妙な一手。藤井四段は☗4五歩と強気に対応した。☗2六歩は取らせても☖2六角では働きが弱くなるのが主張。武者野六段は☖5五角としたが、0手で☗4五歩を突けたことになり先手が手得した。☗4五歩と突いたことで角の利きが先手陣に直射しているが、☗3九玉型のためその脅威はそれほど大きくないと思う。
40手目に早くも☗2五歩が入った。☖2二玉型のため純粋に厳しい。ここで武者野六段も居飛車の常套手段とも言える角頭攻めのカウンターで反撃してきた。☗8八飛と回ったこと、銀を引かされたこと、そして☖2五歩にも☖2六歩と逃げられたのを見ると一見難しくなっているのかと思ったが、57手目から天王山に角を打ち、じっと8筋の歩を伸ばして飛車成りが確定した。カウンターのカウンターが決まった格好だ。藤井四段の対応は、歩得のため局面を落ち着かせつつ、機を見て再反撃を狙うものであった。8筋の逆襲でと金ができては藤井四段が良いと思う。
さらに71手目☗9一角成は☗2五香を見ており、☖2六歩と伸ばされた手をも逆用しようとしている。武者野六段はやむなく歩を成り捨て下に打ち替えたが☗2五歩と緩まず攻めて行く。この玉頭から繰り出される波状攻撃が藤井将棋を並べていて気持ちの良いところ。途中☗2五桂の妙手(図)も飛び出し、89手目には玉頭にと金ができてあっという間に後手陣が崩壊した。いつでも☗4六馬とできる変化があるのも大きかった。
先手陣は崩れているようで、☗3九玉が遠く、その上☗9一馬が自陣まで利いておりすぐ攻められることが無い。
その後武者野六段も☖3七桂の犠打を放しつつ粘ったが藤井四段が手堅くまとめた。最後は8筋の逆襲で作ったと金も寄せに参加した。
これで順位戦は6勝1敗。順位戦5連勝も大きいが、他棋戦を含めても直近20局で16勝4敗とかなり勝っている。とにかく勢いがあり期待が持てる情勢だ。
評価値
なんと美しい右肩上がり。39手目☗2五歩と突いた段階で500点程度先手良しとなっている。武者野六段が反撃したところは差が開いていく一方になっていた。藤井四段の対応が見事だった。
参考文献
- 藤井猛著『藤井猛全局集 竜王獲得まで』(日本将棋連盟発行/マイナビ出版販売)
棋戦情報
第52期順位戦C級2組(主催:毎日新聞社、日本将棋連盟)