感想
小林宏五段との戦い。
戦型は藤井四段の「5筋位取り中飛車」。深浦康市四段戦(1992/6/29・新人王戦)以来の採用だ。このところ四間飛車以外の戦型もよく出てきているような気がする。
☗6八金から金の方を押し上げていくのは深浦四段戦でも見た駒運び。対して小林五段は早めに袖飛車から仕掛け、☗7九銀の活用の遅さを主張した。
しかし27手目、その☗7九銀を活かしたような☗7八飛が出た。
次に角を引けば飛車交換が実現するが、5筋の主張を捨てるような手だけに意表を突いた。そして☖7五歩と打たせ、悠々と5筋に飛車を戻し、左銀を☗6七銀まで活用した。藤井四段が一瞬のところでポイントを稼いだ。藤井四段の駒組み勝ちと思った。
ゆっくりすればするほど先手の形が良くなっていくので小林五段も仕掛けていく。そして藤井四段もその動きに乗じてどんどん駒を捌いていった。駒がぶつかってからのやり取りは何気ないがプロの味で、綺麗に捌くものだと感動する。しかし小林五段も目いっぱい駒を活用できた。実際にはそれほど差はないかもしれない。
59手目☗5六銀は驚いた手で、☖5七桂成があるが☗6六角の返し技を用意している。
それを承知で小林五段も☖5七桂成を敢行し、☗6六角に☖3三角と合わせた。返し技が見えている変化に飛び込んでいく手順が本譜に現れると、一種の気合を感じる。面白い中盤だった。
69手目☗9六飛で飛車が端に追いやられたが、局面は先手が指しやすいと思う。手のついていない美濃囲いが遠いし、この飛車をこれ以上追いかけることができない。藤井四段が☗9六飛を遊ばせないようにしたのもこの将棋の見どころの一つだった。
71手目からは藤井四段の攻めのターン。気持ちの良い手が続くが97手目☗9五飛のように細かい手も含まれている。107手目☗6三馬は面白い手で、☖5一飛なら☗5二歩成で後手の飛車の行き場がなくなる。☖3六桂が怖いが☗9六飛がカバーしている。
結局飛車交換が実現したが、☖3六桂の筋は今度は☗8一馬が防いでいる。118手目☖4五香は馬筋を防ぎ☖3六桂を狙い、さらに☖4七香成を目指す手だが、いったん☗4六銀と犠打を挟んでから寄せに行くのが決め手になった。
☖同香となれば、やはり☖3六桂の筋は馬が防いでくれている。
本局、美濃囲いへの手入れをしながら後手玉に迫っている技が見事だった。
評価値
序盤から先手に振れていると思ったがそうでもなかった。さらに中盤、捌き合いの後は先手に振れているが、先手が攻めに転じてからは藤井四段が必ずしも良いと言う訳でもなかった。端飛車の細かい活用はもしかしたら苦心の手順でもあったかもしれない。飛車交換後は再び先手に振れているが、しかし結局は藤井四段の自陣をケアしながら着実に攻めて行く指し回しが功を奏した将棋だったと思う。
参考文献
- 藤井猛著『藤井猛全局集 竜王獲得まで』(日本将棋連盟発行/マイナビ出版販売)
棋戦情報
第42期王座戦一次予選(主催:日本経済新聞社、日本将棋連盟)