感想
先崎学六段との対戦。先崎六段とは5局目で、過去藤井六段の4戦全勝。先崎六段が藤井六段の研究を外すような力戦調の将棋が増えている。
本局も先崎六段が☗4六歩~☗4七銀と右四間飛車を志向し、ゴリゴリの定跡形を避けようとしている。しかし藤井六段も負けていない。14手目☖4五歩と藤井六段から乱戦を仕掛けた。

こうした乱戦があるというのは、『四間飛車の急所 第1巻』(浅川書房)や後年の羽生善治四冠戦(2001/11/15・順位戦)で知ってはいる。右四間飛車は四間飛車に対して☗4六歩と突くのであり、すぐ4筋に争点ができる四間飛車の長所を活かしている。
23手目☗8八同銀の局面はなんとなく角交換四間飛車にありそうな局面になった。現代なら☖2二銀もあり得るだろうか。当時の藤井六段は☖3三桂。

積極的だ。この桂馬を活用して☖4五飛~☖2五飛と捌きに出るが、当然先崎六段は☗2六歩と飛車交換を拒否。☗2六歩と打たせたとも言える。次に☖3五歩となれば文句ない形になるため39手目☗3六歩。さらに☖4四角☗3七角と打ち合ってひと段落となった。後手は2枚の歩を手持ちにしたことがポイント。しかし飛車の働きはイマイチ。先手は一瞬我慢したが陣形の発展性がある。
ここから改めて駒組み。藤井六段は☖3一銀~☖4二銀と駒を中央に使い直し、飛車の活用ルートを作った。味の良い組み替えだ。さらに54手目☖3五歩として、飛車の横利きも通しながら3枚目の歩を入手した。後手が悪くない展開が続いていると思う。
先崎六段も☗3七角と打った時の狙いであった美濃囲いのこびんを攻めに行き、いよいよ戦いが本格化した。お互いにギリギリで細かい利かしを入れ捌き合う。98手目の局面は後手の桂得で馬もプラス。形勢はさらに後手に傾いてきたように見える。
100手目☖6九銀は単純な引っ掛けながら厳しい。金を逃げると☖7五桂の追撃が来る。先崎六段は開き直ったように☗2三歩成とするが、着実ながら遠い。
そして104手目☖8七飛成!

☖7五桂でも良さそうなのに飛車を切ったということは決めに行っている。まさに一閃。しかし恐らくはどこかに錯覚があり、119手目☗8六桂の局面は後手玉への詰めろが掛かっている。振り飛車の奥義である☖9二玉の早逃げが出たが、先ほど放置したと金が4三の金を補充して詰めろが継続することになった。
最終盤は時間切迫の中だったと思うが、急転直下で先手勝ちになったように見えた。先崎六段に初白星を献上することになったと共に、NHK本戦出場を逃した。無念だが、途中の組み換えは非常に参考になった。
評価値

やはり徐々に後手に傾いているようだった。☖8七飛成の局面も後手の方に振れていたが☖5七金に☗2八飛がぴったりで数値が逆転した。
参考文献
- 藤井猛著『藤井猛全局集 竜王獲得まで』(日本将棋連盟発行/マイナビ出版販売)
棋戦情報
第46回NHK杯争奪戦予選(主催:NHK、日本将棋連盟)