感想
再び中田宏樹五段との戦い。中田五段とは1991年度で3局も対戦する。
藤井四段の三間飛車に中田五段の☖5三銀左急戦。これまで並べた印象では、1991年は既に急戦は下火で居飛車穴熊や左美濃(天守閣美濃)が主流になっている。将棋の勉強を始めると必ずと言っていいほど振り飛車対急戦の定跡を勉強する。それなのにプロの将棋ではあまり出てこない。だから急戦の将棋は貴重で、出現すると嬉しくなる。
中田五段はいわゆる「準急戦」と言われる形を採用した。定跡としては『四間飛車の急所 第2巻』や『四間飛車の急所 第3巻』で詳しく解説されている。本局は三間飛車であることや先手であることから四間飛車の定跡に比べて振り飛車の手が早い。☗4六歩が入っていること、☖4一金のまま(☖4二金としていない)というところに目が行く。ただ、振り飛車は手得をどう活かすかというのは難しい。藤井四段の対応が楽しみだ。
藤井四段は☗5七金~☗4七銀~☗3五歩!~☗3八飛!と玉頭から反発した。☗4六歩型(☗4七銀とできる)、☖4一金型(☖3三の地点が薄い)という形を最大限に活かしたと考えられる。しかし☖4二金~☖4一玉と頑張られたときに、具体的に良くしに行くのは至難の業だ。
そこで☗6七金(55手目)が本局で最も印象に残った一手だった。これで先手の攻めを受け止めている。その間に端から得を求めに行った。この端歩は取れない。先に桂損したが、端は詰めているし後手は歩切れ。良い勝負だと思う。ただし、☗4五歩(68手目)に☖5五歩は隙を突いた仕掛けに見える。
88手目☖4六銀打のところは大丈夫なのだろうか。自分が先手をもって指すとすぐ負けそうだ。しかし藤井四段は☗6五金と堂々としている。数手進んで、なるほど☗8三角が狙いの切り返しがあった。とは言えまだまだ怖い。端を詰めた手も逆用されそうで、逃げ間違えるとあっという間に終わってしまう。☗1六玉まではこれしかないという玉捌きだが、☗1五銀(103手目)に☖2四金が怖かった。しかし☗4二歩がありそうだ。本譜も☗3四飛の両取りが決まった。藤井四段の終盤は本当に正確だ。これで勝ちなら☗6五金としたところからは先手が良い気がする。
☗3八飛からの反発は自分がやってもなかなか上手く行かないが、本譜の藤井四段の将棋は参考になった。当時飛ぶ鳥を落とす勢いがあった中田五段に2連勝。藤井四段もよく勝っている。
評価値
全然違った。まさかここまで後手に振れていたとは。どうも藤井四段側へのひいき目が入っているようだ。☗4五歩(68手目)はやはり少し危険だったか、☖5五歩で後手に振れ始めた。☖4六銀打(88手目)のところはかなり後手が良さそうだ。しかし☖3七金(98手目)が逸機で、☖3七成銀で☖3六角を狙えば後手が優勢を確保できていたようだ。藤井四段の☗8三角~☗7二角成が攻防に利いており中田五段に焦りを与えたかもしれない。
参考文献
- 藤井猛著『藤井猛全局集 竜王獲得まで』(日本将棋連盟発行/マイナビ出版販売)
棋戦情報
第25回早指し選手権戦本戦(主催:テレビ東京)