1994/11/1 藤井猛五段—深浦康市五段(棋聖戦)

感想

深浦康市五段との戦い。これまでの対戦成績は藤井五段の2勝1敗。ちょうど1年ぶりの対局で、前局では両者とも四段だった。力をつけて再び相まみえる。

戦型は藤井五段の四間飛車に深浦五段の居飛車穴熊。☗3九玉型の駒組みも当然のようになってきた。深浦五段は☖4三金ではなく☖4二金寄~☖3二金寄と組み、後で☖4二銀~☖4三銀とガチガチに固めるルートを選択。これは先崎学五段戦(1992/2/7・棋王戦)を思い出す。

思えば、この将棋から既に2年と9か月も経っていた。

本譜は☗2七銀を見て深浦五段が☖7二飛とちょっかいを出したため、先崎五段戦とは異なる将棋になった。藤井五段はこの瞬間の隙を突く。それが45手目☗9五角!

角を入手すれば☗6一角の筋がある。また☖4三銀型は角の打ち込みの隙が多い。とは言え☗3八金と締まっていない瞬間の強手には、わずかな隙も見逃さない藤井五段の強い意志を感じる。角交換はできないと☖7三桂と受けたが、☗7五歩からどんどん攻めて行く。

藤井五段の機敏な動きが見られたが、深浦五段も負けてはいない。こちらは54手目に☖4五歩の反撃。

これも何もないところで急に歩が突き捨てられたため一瞬驚く。しかしこの歩を突き捨てることで、後の☖3三角や☖2四角のラインが効果的になる。見応えのある中盤戦だ。藤井五段はここで☗3八金と締まった。

藤井五段は7筋を押さえて左銀の活用を図るが、深浦五段は先ほど4筋の歩を突き捨てた効果で☖6二角~☖4四角と浮いた銀を狙う。対して☗5六金は将来の☗4八飛の転換を見据えた受けだが、☖4七歩が上手い垂らし。飛車が回れなくなった上に、将来のと金の種にもなっている。先手は強い捌きができなくなってしまった。

72手目☖3三角も驚きの手。☗5三角成とできてしまう。馬が作れた上に飛車当たりであり、先手にとって嬉しすぎる手のはずだが、直後の☖5五歩が用意の切り返し。☗同銀は☖5一飛から5五の地点で2枚替え、☗4六金も☖5六歩☗同金☖5一飛☗3五馬☖5六飛☗同歩☖6七金が決まる。そこで藤井五段は☖5五歩の瞬間に☗2五桂と跳ねたが、やはり☖5一飛~☖5七馬と跳び込まれる変化があるため5五の歩は取れない。半ば仕方のないような形で☗7一馬と飛車を取ることになった。飛車金交換の駒得だが、陣形差があり過ぎる。

しかし「まだまだ」というように81手目☗5四飛は粘り強い一手。銀を引かせて馬を引き、と金を作ることができた。さらに1歩も入手し、端攻めの味もできた。ある程度駒損は回復できた上に攻め合いが望める。しかし☖4九飛には、中盤の入り口で垂らされた☖4七歩が効いて☗3九金打と駒を投資して受けるしかないのはつらい。

端攻めからなんとか桂香を入手し、それを4筋に打ち替えガリガリと側面から削っていく。しかし115手目☗5二同飛成は詰めろではない。☖1五角が守りによく利いている。そこで放たれた☖2五桂が決め手。

これが上手い手で、そのまま寄せ切られてしまった。

評価値

評価値(Suisho5(20211123)-YaneuraOu-v7.6.3/1手15秒)

中盤からは振り飛車が苦しい雰囲気を感じながら並べていたが、その印象は間違っていないようだが、それ程形勢は離れていなかった。藤井五段の辛抱の仕方もさすがだった。大きく傾いたのは113手目☗5二馬。ここはさらに☗4九歩と辛抱し、次に☗5二馬と入るのが良いということだった。本譜の☖2五桂からの寄せを思うと、確かに☗4九歩が必要だったかと納得する。

参考文献

  1. 藤井猛著『藤井猛全局集 竜王獲得まで』(日本将棋連盟発行/マイナビ出版販売)

棋戦情報

第66期棋聖戦一次予選(主催:産経新聞社、日本将棋連盟)