1996/3/13 藤井猛六段—小野修一七段(全日プロ)

感想

小野修一七段との戦い。小野七段とは過去1勝1敗で、いずれも居飛車穴熊を指されている。

本局も小野七段の居飛車穴熊を警戒し、藤井六段は藤井システム模様の駒組みを見せる。しかし現在は藤井システム封印期間。17手目☗4八玉と居玉を崩す。それを見て小野七段も☖3三角。本局も四間飛車対居飛車穴熊に進みそうだ。

22手目☖1二香の瞬間に☗6五歩はこの時期の藤井将棋のトレンド。本局は☗3六歩まで突いた形で角交換を挑んでいること、また小野七段が☖6二銀型で待機していたことにより☗6四歩から捌きやすいことからタイミングの良さを感じる。小野七段から角交換し、またしばらく駒組みが続いた。

居飛車穴熊と銀冠が組みあがったところで、49手目☗1六銀!銀冠の銀を前線に送り出した。

藤井システムを登場させたことで既に藤井将棋の独自色というのは出ていたと言えるが、後に「藤井将棋らしい」と言われるような力強い駒運びがこの頃から姿を現し始めてきた。従来の常識から飛び出して、藤井六段だけの世界が作られようとしている。

☗1六銀に対して☖3三銀は☗1六銀に真っ向から対抗しようとする意志を感じる。しかし穴熊が崩れた。これだけでも☗1六銀と出た甲斐があったと思う。さらに☗2五銀と出て、☖2四歩☗1六銀は☗2五歩の争点が生まれるし、☗4五歩と組み合わせて☗4六角と据えれば超好形が望める形になった。後手は☖2四歩と追い返せない。

小野七段は☖7三角とこのラインに角を先着するが、4筋に位を張って☗6六角と、今度は☗3四銀と組み合わせて直接玉を攻められる形になった。やむなく☖3二玉と直射を避けるが、もはや穴熊の姿はない。藤井六段が後手陣を翻弄しており、藤井六段が優位に立っているように見える。

その後7筋から歩交換し、後手の動きを丁寧に対応しながら駒得を果たし、83手目☗3五歩がメガトン級のパンチ。

☗2五銀が強烈な存在感を放っている。後手からの反撃もあるが先手玉はすぐ寄らない。後手からの攻めが来るまでに後手玉を寄せ切った。

銀冠の銀を前線に送り出す、「藤井将棋らしい」力強い駒運びが見え始めた一局。そしてその構想を完璧に活かして勝ち切ったお気に入りの棋譜。

評価値

評価値(YaneuraOu(tournament128-cl4) NNUE 20240528/tanuki-wcsc34/1手15秒)

最高の右肩上がり

参考文献

  1. 藤井猛著『藤井猛全局集 竜王獲得まで』(日本将棋連盟発行/マイナビ出版販売)

棋戦情報

第14回全日本プロトーナメント(主催:朝日新聞社、日本将棋連盟)
2025年6月16日許諾済み