感想
NHK杯本戦という舞台での内藤國雄九段戦。若手と大御所との戦いはいつもワクワクする。前回の内藤國雄九段戦(1992/6/23・王将戦)も面白かった。
「自在流」の異名を持つ内藤九段の戦型は予想がつかない。前局、内藤九段は棒銀を採用したが、本局はお互いに端歩を突き合い様子をうかがった末、相振り飛車になった。
藤井四段は☖6四歩~☖6三金と6筋に厚い形。これで先手の浮き飛車を圧迫できれば上手いが、内藤九段は6筋、9筋の歩が突き合っているのを活かし、☗6五歩から歩交換した後☗8五銀から端攻めを狙い、あっという間に攻撃態勢を築いてしまった。端を詰められた56手目の局面は、先手に対して後手からの攻め味が薄く、藤井四段不満な展開になっているのではないかと思う。
67手目まで進むと攻めの銀と守りの銀の交換になり、内藤國雄九段が着実にポイントを挙げた。☗4三銀のような狙いもできている。しかし手番は後手。ここから藤井四段は色々やってくるはず。
まずは角の利きにポンと☖5五歩。☗4三銀を防ぎつつ5筋の歩を切り、さらには☖5四銀と駒を前に進めようとする一石何鳥もある手。こういう手が勉強になる。さらに先手陣の金無双の弱点である玉のこびんに味をつけ、☗2六飛という飛車の展開も防ぎながら☖8四銀と投入し、飛車を追い回す過程で角銀交換に持ち込んだ。
しかし81手目の局面は後手歩切れ。飛車成りが受けづらい。☖5四角は仕方ない受けだが、いかにも苦しさを感じる。
先手優勢と思われる局面。ここからの内藤九段の指し回しが素晴らしかった。
☗8四歩☖同歩☗8二歩としておいてから☗4三銀!の鬼手が出た。
☗5一飛成~☗1一竜がすこぶる厳しい。藤井四段は☖3六歩~☖2五桂と攻め合いに活路を見出そうとするが、☗4七金左~☗3七歩が冷静で先手陣が崩れることは無かった。
最終手☗4七角が美しい。後手陣は6筋に金銀の壁があるが、飛車が逃げると8筋から寄る形になっている。
藤井ファンとしては無念の棋譜だが、内藤将棋の素晴らしさを味わうことができ、並べた甲斐があると思わせる一局だった。
評価値
やはり先手の作戦勝ちから着実に差を広げていったという序中盤のようだ。後手陣の厚みを逆用して素早く攻めの形を作った上手さ、作戦勝ちを有利につなげるポイントの挙げ方、優位な局面で決めに行く踏み込み。内藤将棋に惚れ惚れする将棋だった。藤井四段の方も、出足が遅いところで☖5五歩から駒を前に進めていく指し回しや、少しでも先手陣に嫌みをつけていくところが勉強になった。
参考文献
- 藤井猛著『藤井猛全局集 竜王獲得まで』(日本将棋連盟発行/マイナビ出版販売)
棋戦情報
第43回NHK杯争奪戦本戦(主催:NHK、日本将棋連盟)