1994/4/28 藤井猛五段—神崎健二五段(IBM杯)

感想

IBM杯は自分が将棋を見始めた頃には既になくなっていたが、順位戦昇級者同士のトーナメント戦とのこと。非公式戦ながら面白いコンセプトだと思う。

神崎五段とは公式戦での対局はないが、非公式戦で2局目。前局は対居飛車穴熊藤井システムの原型となる重要な将棋だった。

本局も神崎五段は居飛車穴熊を目指し、藤井五段は☗3九玉型で☗3七桂からの速攻を目指す。ただ、8筋を伸ばさずに目指したのが前局との違い。より早く穴熊に組もうとしている。そして☗3七桂に☖5五角と出て☗4六歩を狙った。さらに☖3二飛と桂頭も狙う。☖4四銀と左銀の応援も加わった。居飛車穴熊ながら、藤井五段の速攻の形を咎めようと積極的に動いている印象を受ける。

藤井五段は銀冠を築き上部に厚い構えにする。☗4八飛と守っておりすぐには潰れない格好だ。その上居飛車穴熊に組まれているが、☗2五歩と突き☖3二飛型を咎めようとしている。藤井五段もまた神崎五段の形に応じて手を作ろうとしている。

そしていよいよ神崎五段は3筋から開戦。途中、神崎五段が☗3六金の形で☖3五飛と指したのが面白い。無理やり飛車金交換に持ち込もうとしている。陣形差はそれだけのものがある。藤井五段は注文に乗らず☗2六金と交わす。結局金銀交換になった。通常守りの金と攻めの銀の交換なので居飛車がポイントを挙げたと見るべきだが、後手の次の構想が難しい。一方で先手は☗1五歩☗8五歩☗6五歩等指したい手が色々ある。良い勝負だと思う。

藤井五段が65手目☗5八銀としたところで局面が動き、お互いに馬を作った。☖8八角成の後の☖7七歩は馬が一瞬陰になるので決死の一手。この瞬間、藤井五段は☗4五桂~☗4三銀と攻め立てる。飛車を攻めながら後手玉に迫れているので効率が良い。さらに飛車角(馬)交換を誘い、☗3五歩~☗3九飛と3筋への集中攻撃を見せる。神崎五段の☖7八歩成~☖6八とは銀当たりだが、それも手抜いて攻め込んだ。中盤の入り口で2筋を突き捨てたのも効いている。藤井五段の迫力ありすぎる攻めを見ることができた。103手目☗3五桂の金取りが厳しく完全に決まったと思った。

しかし神崎五段は崩れない。104手目☖2一金は感覚に無い受けで一瞬符号が追えなかった。まさか☖2三金の金を助けない手があるとは。☗4一飛☖3一歩が入ってまた後手玉が遠く感じるようになった。

藤井五段は3筋からだけでなく端も絡めてきた。ただ端は先手玉の弱点でもあるので諸刃の剣。この端攻めの間に藤井五段は一分将棋になった。129手目☗1四銀は詰めろだが先手玉も非常に怖い形だ。ここで神崎五段の選択は☖1七香成~☖1五飛の王手銀取り。これには☗1六香のカウンターがあると思ったが、☖1四飛とされると☗2五桂が生じている。ずっと先手が良いと思っていたがもうどちらが勝ちか分からない。ここで☗1二歩成がギリギリのテクニックで、☖同金に☗3二金の妙手が生じた。☖同玉☖同歩どちらもありそうで悩ましい。本譜は☖同玉だったが☗4三角から上部を厚くしながら寄せることができた。

最後はどちらが勝つか分からない大激戦だった。神崎五段は居飛車穴熊党であるため、藤井システム誕生以前の重要な内容の将棋が多いが、本局は終盤の攻防も見応えがあった。

評価値

評価値(Suisho5(20211123)-YaneuraOu-v7.6.3/1手15秒)

藤井五段優勢で推移しているのは印象通りだったが、終盤は大勢が何度か入れ替わっていた。勝負どころはやはり☖1四飛と銀を取った局面だった。ここで☗1四香は確かに☖3九角~☖2五桂で後手が勝ちになっている。☗1二歩成ではなく☗1二金なら後手玉が詰みだったためこの評価値になっているが到底一分将棋で読み切れる変化ではないと思う。ということはここでは難しくなっている。神崎五段の☖1七香成~☖1五飛は良い粘りだった。137手目☗3二金に☖同歩は後手玉が詰むようで、☖同玉も正着。149手目☗1四香までいけば先手玉が安全になったため藤井五段の勝ちの局面だと思ったが、154手目☖1三歩ではなく☖2六角~☖4八角成で後手が良い(勝ち)という。先手が歩切れなのがつらい。しかしこれも難解過ぎる変化のため、対局者もここは先手が勝ちになったと思っていたのではないだろうか。

参考文献

  1. 藤井猛著『藤井猛全局集 竜王獲得まで』(日本将棋連盟発行/マイナビ出版販売)

棋戦情報

第6回IBM杯戦(主催:毎日新聞社、サンデー毎日、日本将棋連盟)