1994/8/9 森内俊之七段—藤井猛五段(王将戦)

感想

佐藤康光竜王を破り、二次予選決勝で森内俊之七段と戦う。

戦型はまさかの力戦相居飛車。3~4手目の9筋の突き合いや5手目☗4八銀と、森内七段がいかにも対振り飛車決め打ちの駒組みを進めていることが影響したか、6手目に☖8四歩と突いて藤井五段は居飛車を明示した。

藤井五段はそのまま8筋の歩を進めて一歩交換に成功。8筋の歩を切って一歩を手持ちにしていることは大きいと思うが、森内七段も銀冠に組み替え、当然一方的に後手が得したような将棋にはしない。銀冠に組み替えたことで、☖9五歩の端攻めにも強くなっている。

森内七段の☗6八角☗5七銀の形が重いようだが、☗4八飛~☗4五歩~☗3七桂~☗4五桂~☗4六銀が美しい駒運び。全軍躍動の形で☗3五歩と仕掛ける。藤井五段も負けじと☖6四銀~☖7五歩と襲い掛かる。続いて☗3四歩☖7六歩。お互い我が道を行き若者の気合がぶつかっている。

しかし69手目☗7六同銀とさっと受けに回ることができるのが受けの森内七段。以降☖6五桂と☖7七歩を中心に先手陣にくさびが入るが、むしろ☗8七金と上がった形が8筋に手厚く、陣形が崩れることをまったく苦にしていない雰囲気がある。そして後手陣にも☗4三歩からくさびが入り、☖3一角とされた形は後手玉の逃走ルートがなくなっており、絶好のタイミングで☗1五歩が入った。

それでも藤井五段も78手目☖9五歩~☖8五歩とし、攻め合い志向は変わっていない。

85手目の局面は☖8六歩~☖5五銀が狙い筋になっていたと思うが、☖9六歩とさらに力を溜めた。しかしそこでじっと☗7五歩とされ、途端に先手陣攻略の糸口がなくなったように感じた。

ここからは森内七段が一方的に攻めるターン。95手目すぐ☗4二歩成は☖4七歩から止められるのでまだ歩は成れない。そこで☗3四歩~☗2六桂が絶妙。☖2六同金なら今度こそ☗4二歩成が入る。☖4七歩~☖4六歩~☖4五歩の連打には☗2六飛と金を取れる。

森内七段が上手く攻めているようだが、藤井五段も☖2五金~☖1二玉~☖1六歩とギリギリ耐えていく。先手も攻め駒が少ないので凌ぎ切ればというところ。しかし、そこで☗9六香~☗9一香成と香車を補充したのが決め手だった。

108手目☖9一同飛なら☖9八飛打からの詰めろだが、その瞬間☗1三香から後手玉が詰む。藤井五段は☖2四歩~☖8二飛となおも粘るが、ついに☗4二歩成が入り、最後まで☗2六桂の利きが抜群で逃れることはできなかった。

序盤森内七段の指し手を見て居飛車を指したこと、中盤のお互い我が道を行く攻め合い、終盤のギリギリの攻防、ずっと見ごたえのある将棋だった。しかし惜しくも王将リーグ入りならず。

評価値

評価値(Suisho5(20211123)-YaneuraOu-v7.6.3/1手15秒)

形勢判断がよく分からない将棋だったが、先手の形が崩れたところはやや先手良し。しかし☗7五歩として先手陣攻略が難しくなったと思った局面はむしろ後手に振れた。となると、☗7五歩の局面では後手陣上部の2枚の桂馬を外すことができ、先手の攻めを余しやすくなったと見るべきだった。森内七段の☗3四歩~☗2六桂は絶妙だと思ったが、100手目☖5七銀のところではいったん☖2一桂とし、☗3三銀を防いだ方が良かったという。本譜を見ると藤井五段としては☗3三銀とされてもギリギリ余せると思っていたかもしれない。森内七段の攻めの繋ぎ方が見事だった。

参考文献

  1. 藤井猛著『藤井猛全局集 竜王獲得まで』(日本将棋連盟発行/マイナビ出版販売)

棋戦情報

第44期王将戦二次予選(主催:毎日新聞社、スポーツニッポン新聞社、日本将棋連盟)