1994/10/25 藤井猛五段—坪内利幸七段(順位戦)

感想

5連勝中の藤井五段と3勝1敗の坪内七段との戦い。坪内七段とはこれが唯一の対戦。

戦型はまず藤井五段の四間飛車。15手目☗4六歩が早い印象を受ける。坪内七段の棋風が分からないのが残念だが、持久戦を想定していたものか、堅い美濃囲いを目指したものか。坪内七段はこの☗4六歩に反応したように、左銀急戦を目指した。

この将棋は序盤かr藤井五段がかなり時間を使っている。21手目☗6七銀は自然だが、☗5八金左とする手もある。☗6七銀だと、ギリギリまで☗6九金型で待機し、相手の出方をうかがう含みもある。

26手目☖6四歩。坪内七段は☖6五歩早仕掛けの形に決めた。ここで振り飛車はまた分岐点。☗7八金で手厚く受け止めるか、☗5八金左でカウンター狙いとするか。藤井五段は端歩を突いてから☗5八金左とし、典型的な定跡形に合流した。端歩の突き合いも微妙なところで、色々な手が生まれたり消えたりしている。この時代、この戦型の定跡はどこまで整備されていたのだろうか。先後や端歩、舟囲いの形など、そもそも分岐点が多い戦型ではあるが、ここまで藤井五段は実に2時間30分以上時間を費やしており、実戦の中で様々な対応を考えているように見える。

35手目☗8六同歩。☗3六歩が入っており、☗8六同歩とできる形。この形が藤井五段の実戦で現れたのは初めて。

41手目☗6五同飛。先後逆で6八金型の舟囲いの形であるが、『四間飛車の急所 第3巻』この手は現在ではで羽生善治四冠(当時)によって否定されたと書かれている。しかし本局は☖4一金型であるため、☗2二角成☖同玉☗6五飛としたとき、☗2六桂の反撃筋がない。この形は自分も昔オンライン将棋でよく指しており、☗6五同飛と指していた。

44手目は☖8七角だったが、☖8六飛だとどういう進行になっていただろうか。☖8六飛に☗4五桂☖4四銀☗9五角と打てないのは端歩の突き合いが損になっている。☖8六飛☗3五歩なら櫛田流の進行になる。しかし☖8七角もよく指されていた手で、藤井五段の実戦例を並べられるのは嬉しい。

実戦は☗6三歩から抑え込んで、51手目☗5五歩。

まさに本筋。プロの棋譜を並べる意義と言うのはこういう手の味を知るところにある。

55手目の局面は先手が優勢と思う。居飛車はしばらく受けに専念するが、先手は一方的に攻めの手だけを指せている感じで、優位が拡大していった印象だ。93手目までずっと攻め続け、高美濃はまったく手つかずの状態で勝ち切った。

これで順位戦6連勝。勝率も高く、勢いに乗っている。

評価値

評価値(Suisho5(20211123)-YaneuraOu-v7.6.3/1手15秒)

仕掛けの局面は互角。やはり☗5五歩が入ってから徐々に差が開いていった。快勝譜。

参考文献

  1. 藤井猛著『藤井猛全局集 竜王獲得まで』(日本将棋連盟発行/マイナビ出版販売)

棋戦情報

第53期順位戦C級1組(主催:毎日新聞社、日本将棋連盟)