感想
関根茂九段との対戦。関根九段とはこれが唯一の対戦。関根九段は72歳まで順位戦を戦い切って引退した棋士。この対局の時、既に64歳であったが、まだB2に在籍していた。
戦型は藤井五段の四間飛車に、関根九段はなんと☗8九玉型。
『藤井猛全局集』ではこの形を「8九玉型」と分類している。この形は対穴熊藤井システム登場以降、もっと言うと藤井猛竜王誕生以降によく出てくる形であり、1994年の対局で出てきたことに驚いた。さらに☗8九玉型は往々にして端が弱点になるが、この時代らしく端が入っていない。☗8九玉型にとって条件が良い将棋であり、関根九段の先見性が素晴らしい。時系列で棋譜並べをしていると思わぬ発見をすることがある。
☗2四歩からの仕掛けに☖5五歩☗同歩☖同銀は銀を前に繰り出していき積極的だが、すぐ次の攻めがある訳ではない。この瞬間関根九段は2筋から押し込んでくる。
46手目、☖2五歩☗2八飛☖2四飛と思ったが、☖5八角成だったので驚いた。42手目☖2七歩に70分も考えており、何か嫌な変化があったものだと推測できるが、具体的な手順は分からなかった。47手目☗2三歩成にそこで☖2五歩と切り返すが、☖2三飛の時に☗3二角が激痛になっている。☖5五銀と☖3三桂の位置が角で拾われやすい形になっているのが後手のつらいところだ。
46手目☖5八角成~58手目☖2三歩までは、瞬間的に銀桂損になるものすごい順。
明確に後手が苦しいと思うが、最後の☖2三歩も鬼のような辛抱だ。ただ、飛車が動けば☗4八銀は取れる形になる。
63手目☗2七飛で飛車が動いたが、そこで64手目☖4九角!取れる銀を取らずに飛車取りと☖6七馬からの2枚替えを狙う角を打った。藤井五段はこの角打ちに期待して辛抱していたのだ。関根九段は読み筋とばかりノータイムで☗2四飛と走るが、藤井五段は急所の金2枚をはがすことに成功した。
72手目☖6七同金で大駒はすべて先手に渡った。美濃囲いの瞬間的な堅さを活かして小駒で寄せていくのはまさにガジガジ流。しかし本局は金銀3枚の攻め。果たして攻めが繋がるかどうか。
82手目☖6七金の瞬間はいかにも心細い。藤井五段が必死に喰らいつく間に、☗2二飛成、☗7四歩、☗8五桂、☗5六角と着々と後手陣を狙う手を積み重ねていく。ところが☖5二歩と☖6三金と手を入れるだけでこの美濃囲いが寄らない。☗5六角は☖6七金も狙う攻防の角だったが、☖8六成銀が詰めろで入ったのが大きかった。☖8九角~☖8八金で☖6七金に紐がついた。☖8八金が取れないのでは後手の攻めが完全に繋がった。95手目☗7六飛は更なる攻防手だったが、それでもなお、後手玉は寄らない。☖8七銀と打って勝負ありとなった。ガジガジ流の攻めが印象的であるが、美濃囲いへの手入れを最少手数で済ます藤井五段の見切りも素晴らしかった。
☗8九玉型や終盤のガジガジ流など、何年も後の将棋を並べているようだった。
評価値
中盤はやはり先手が良くなっていた。46手目☖5八角成に代えて☖2五歩では、☗2八飛☖2四飛☗5九銀☖2六歩☗1五角☖2三飛☗5八銀☖2七歩成☗4九銀☖2八と☗3二角のような順を気にしたかもしれない。☗3三角成~☗5五馬と取られる順は後手にとって味が悪すぎる。再度互角に戻ったのは67手目☗6七同金の瞬間であり、小駒で寄せていくところは既に後手が良くなっていた。2枚替えの局面で互角以上になっているというのは、藤井五段が目指していた世界は正しかったということであり、大局観が素晴らしいと言える。
参考文献
- 藤井猛著『藤井猛全局集 竜王獲得まで』(日本将棋連盟発行/マイナビ出版販売)
棋戦情報
第43期王座戦二次予選(主催:日本経済新聞社、日本将棋連盟)