1991/7/16 松浦隆一五段—藤井猛四段(順位戦) ※千日手局

感想

本局の結論を先に書くと千日手である。第53期王位戦七番勝負第1局の羽生善治王位—藤井猛九段の千日手を見て、千日手局にもその棋士の生き様が宿り、魅力が詰まっていると知り、決して蔑ろにしてはいけないと思うようになった。このブログは千日手も一局の将棋としてしっかり並べる。

本局は順位戦第2回戦。1勝同士の戦い。4手目までお互いに角道を止めるという、普通なようでほぼ見かけない出だしとなった。相振り飛車と思いきや、松浦五段は高田流左玉のような構えにした。さらに☗5八金も「右」ではなく「左」で、徹底的に先手の飛車を抑え込もうとしている。私自身このような指し方を相手にするのが苦手で、本局の藤井四段の指し方は参考になった。

藤井四段は四間飛車から石田流へさっと組み替え、穴熊に組んだ。先手は☗6六角と端攻めを狙う形であるが、飛車角桂香で攻め切れるかは微妙なところだ。石田流で早めに動ける形を作って先手の攻めを牽制したことや、美濃囲いより穴熊の方が軽い端攻めに対応しやすい意味があると思う。

52手目☖4五歩で後手陣が最も美しい形となったが、必然的に次の手で美しさが崩れるため、どう指すかは難しい。

54手目☖4四銀は攻めに行くという意思を込めた決断の一手だったと思う。

歩をガンガン突き捨て藤井四段の攻めが刺さったかに見えたが、☗2一成香が上手い切り返しで、☖5四飛(86手目)の局面は瞬間的に角香損。逆にやられたかと思ったが、玉形に差があり過ぎて実質的には良い勝負か。ただし近代将棋誌上で藤井四段は「負け将棋だったので丸々もうかった」と言っているので、藤井四段は相当悪いと見ていたことが分かる。

攻め駒が少なすぎるのが気がかりだったが、☖5五飛(92手目)に☗同飛ではなく☗5六歩であったためボロっと角を入手することができた。今度こそ後手が良くなったのではないかと思った。さらには左桂も攻めに加わった。

しかし☗6七銀が鍛えの入った受け。後手の駒も急所に利いているようで、先手陣のバランスが良くもう一押しが見えない。結局ここから駒を打ち合い千日手となった。藤井四段プロデビュー後初の千日手。千日手成立時刻は23時43分であった。

評価値

評価値(Suisho5(20211123)-YaneuraOu-v7.6.1/1手15秒)

序中盤、先手に振れているように見えるが点数は大きくなくほぼ互角と言える。60手目台は藤井四段が決断よく攻め始めたところで、将棋ソフト的には厳密にはやや無理と言っているが、千日手直前はやや後手良し。藤井四段がうまく勝負形に持ち込んだと言える進行だと思う。しかし味良く見えた☖4五桂で互角に戻った。これも意外性があって、これが良い手では無いと言われるとつらいものがある。結局千日手はやむを得なかったのかもしれない。

参考文献

  1. 藤井猛著『藤井猛全局集 竜王獲得まで』(日本将棋連盟発行/マイナビ出版販売)
  2. 若手棋士インタビュー 藤井猛四段の巻 一人将棋でつかんだ将棋観(『近代将棋』1991年10月号)

棋戦情報

第50期順位戦C級2組(主催:毎日新聞社、日本将棋連盟)