感想
三度中田宏樹五段戦。
本局は藤井四段の先手三間飛車に中田五段が☖6四歩~☖7二飛~☖6五歩とあまり見ない仕掛けを敢行した。
これに持ち時間3時間の内62分を費やして☗同歩。☖8二飛(40手目)とされたところは一見後手が捌けそうに見えたが、☖5七歩や☖1五歩を入れたり手順が極めて複雑。一筋縄ではいかないと見ている。それを示すように☗8三歩~☗3六角がなんとなく藤井四段らしいカウンター。
2局続けての筋違い角で、飛車の捌きを抑え、攻め合いに持ち込めそう。ここでも有効な角打ちに見えた。
61手目、☗6三歩成で数が足りているところ、歩を成らず☗8一角成としたのは一瞬驚いたが、確かに☗6三歩成は手抜かれると後手陣への響きが薄い。とは言え☗8一角成~☗8二歩成は苦心の順に見え、その間に☖5七歩成と急所にと金ができた。やや先手が苦しい進行に見えるが、藤井四段も歩の手筋を駆使して先手で飛車をおろすことができた。しかしその反動で☖1五歩☗同歩が入っていたのを活かされ端がますます弱まった。なかなか差が縮まったように見えない。
ところが107手目☗5二歩成と玉の傍にと金をつくることができた。先手陣には火の手が上がっているが角か銀を渡さなければもう少し猶予がある。何かないかと思っていたが、逆に☖5五角という強手が飛んできた。
後手玉の退路ができたし、盤上先手の主張は☗4五の馬と☗5二のと金であったが、これで馬を消されてしまった。事実上の決め手に見えた。
80手目付近からお互い延々と一分将棋を指し続け、終局は160手だった。中田五段は万が一がないように慎重に慎重に指し手を選んだ印象がある一方で、藤井四段は苦しい時間が長かったと思うが、逆転を目指し指し手には熱がこもっていた。
評価値
なんと先手良しの局面があったという。95手目に☗4四桂という妙手があるのでこの数値になっているようだ。また、決め手に見えた110手目☖5五角に対しても、113手目に☗3六同歩としていれば先手が良いということだった。3七が空くのが怖いが、☖3七香には王手を続け、☗5五馬と王手で角を抜けるため、☖同銀とさせて香車を取り返せるという理屈だ。評価値上は藤井四段の粘りが功を奏していたと言えるが、一分将棋の中で強弱織り交ぜた中田五段の指し手が玄妙だったように思う。
参考文献
- 藤井猛著『藤井猛全局集 竜王獲得まで』(日本将棋連盟発行/マイナビ出版販売)
棋戦情報
第60期棋聖戦一次予選(主催:産経新聞社、日本将棋連盟)