1992/4/20 藤井猛四段—桐山清澄九段(NHK杯)

感想

名棋士、桐山清澄九段との戦い。藤井四段はこの対局でNHKデビューを飾る。

ところが戦型はまさかの横歩取りになった。桐山九段の振り飛車を予想していただろうか。少し進むと横歩取りとは言え比較的穏やかな進行になった。桐山九段はひねり飛車のような形にし、藤井四段は2筋を凹まされた。先手は持ち歩が多い主張があり端攻めを狙う形を作ったものの、桐山九段の作戦勝ちであったと思う。

本局の見どころは中盤。藤井四段は徐々に右側の銀桂を使っていくが、桐山九段は藤井四段の手に対応するような手のみを指す感じで、先手陣を攻略と言う雰囲気がない。それなのに、藤井四段の指し手が徐々に難しくなってくる感じがした。

59手目、☗2九飛~☗4八金の好形を目指そうとした瞬間に☖5五歩~☖6四角のカウンター。☗5八飛と回れないことを咎めている。いつの間にか桐山九段の銀は天王山に構え、飛車の横利きがきれいに通っている。好形にした☗4八金も浮き駒として角に狙われ、☖3七歩とわずかな隙に効果的な歩を垂らしてくる。桐山九段の将棋が渋くて上手い。

ただ、藤井四段もじっと我慢し続け、馬を作っていよいよ端攻めを敢行する時がやってきた。しかし99手目は☗4六歩と取って☗9四歩とすると思いきや、☗9四馬だった。☖4六飛とされたときに☖5七歩成~☖7六飛のような筋を避ける意味だろうか。いずれにせよ端攻めは上手く行かなかったということだ。ここでは藤井九段がハッキリ悪そうだ。

以下は桐山九段が見事にまとめた。思い返せば桐山九段の左金は細かくよく動いた。貴重な手番を金を動かすだけに使う。しかしそれで攻めづらくなる。達人のような呼吸を見た。そして最後はその金がとどめの駒として使われた。桐山九段の技が感じられる一局だった。

評価値

評価値(Suisho5(20211123)-YaneuraOu-v7.6.3/1手15秒)

桐山九段の作戦勝ちと思ったが、評価値はやや先手の方に振れていた。飛車が息苦しく、先手の方が良いと言われてもあまり納得できないが、藤井四段がうまく指していた面もあるだろうか。しかし徐々に徐々に後手に振れていく。端攻めのところは1000点を超えており、藤井四段にとっては既に苦しい局面だったことが分かる。やはり桐山九段の指し回しが絶品であったと思う。

参考文献

  1. 藤井猛著『藤井猛全局集 竜王獲得まで』(日本将棋連盟発行/マイナビ出版販売)

棋戦情報

第42回NHK杯争奪戦本戦(主催:NHK、日本将棋連盟)