感想
山口英夫七段との戦い。デビュー戦以来の対戦で、藤井新四段が矢倉で勝利を挙げた。このカードはこれが最後の将棋となる。
本局は山口七段の筋違い角。二人とも振り飛車党ではあるが、どうも相振り飛車や単純な対抗形にはならない。藤井六段は4筋と5筋に位を張る指し方で、約2年前の武市三郎五段戦(1994/1/24・棋王戦)と同様に進めていく。
右辺は振り飛車に制圧されているようだが、左辺は銀立ち矢倉の形が美しい。
39手目、山口七段は☗7八飛~☗8四歩~☗8三歩と手持ちの一歩を活かして攻めてきた。次の☗8八飛が受けづらいようでも☖6四角が上手い受け。

☖7五角と出れば☗8四飛とは走れない上にこの角を追うことができない。さらに先手玉のこびんも睨んでおり、一目名角だ。
山口七段は☗7六角~☗6五歩と好位置にいる角を追うが、藤井六段の対応が素晴らしかった。まず逆に☗7六角を追うように☖7四歩から反発。しかし☖7五歩となると、☖7五角として8四の歩を守る形ではなくなる。実際51手目に☗8八飛と寄った。これに☖7四飛には☗8二歩成があるので受けづらそうだが、☖7四飛☗8二歩成に☖3三角が狙いの一手だった。

☖5六歩がめちゃくちゃに厳しいが、良い受けがない。☗8一とと駒を蓄えるが、☖9九角成☗8七角となっては先手は飛車も角も負担になっている。44手目☖6四角からわずか十数手で一遍に後手勝勢になった印象だ。
60手目☖8五歩のところ、つい☖8五香と打ってしまいたくなるが、負担になっている飛角との交換より玉頭に使うのがより良いのだろう。

飛車を追いかけて自然に☖2三香が実現した。
そして4筋を壁にして馬をじわりじわりと引いていく。86手目☖5四同角まで、半ば強引な手順で玉頭攻めの理想形を実現した。
☖1五歩で山口七段投了。☗1五同歩は☖1八歩が厳しい。文字通り急所を突いている。馬引き、あるいはもっと前の時点でこの寄せの構図を描いているのだ。藤井六段見事な快勝譜となった。
評価値

参考文献
- 藤井猛著『藤井猛全局集 竜王獲得まで』(日本将棋連盟発行/マイナビ出版販売)
棋戦情報
第22期棋王戦(主催:共同通信社と観戦記掲載の21新聞社、日本将棋連盟)